なぜ日本の天皇は125代も続いてきたのか 織田信長もGHQも倒そうとしなかった

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1086年、白河天皇が8歳の子(堀河天皇)に皇位を譲り、上皇(太上天皇のち出家して法皇)となったのが院政の初めです。この後、鳥羽上皇や後白河上皇、後鳥羽上皇などが院政を続けます。

中世に院政が行われている間(後醍醐天皇の親政など例外はありますが)、鎌倉幕府や室町幕府といった武家政権が誕生します。幕府は朝廷より軍事的には強大なパワーをもち、実質的に全国を支配していたわけですが、天皇や上皇にとって代わろう、排除しようとはしませんでした。

源頼朝にしても足利尊氏にしても、朝廷から賜った「征夷大将軍」という地位(銅メダル)で満足していました。なぜなら、権威(金メダルや銀メダル)を持つ朝廷から将軍に任命されることに価値があったからです。新興勢力である武家は自らを裏付ける伝統的な権威がなく、軍事力だけで政権は長続きしないことを知っていたのです。

このように朝廷の天皇(上皇)は、軍事力や経済力で上回る幕府の将軍に対し、ある程度の権威を承認するという方法で、自らの地位や権威を維持するようになったのです。クレバーな処世術といえるでしょう。

戦乱期を経た近世の江戸時代も、基本的なスタンスは同じです。江戸幕府は圧倒的に強い存在でしたが、天皇は、政権を将軍に委任する伝統的権威の象徴として生き残りました。幕末の大政奉還も、「幕府の将軍が朝廷の天皇から預かった政権をお返しする」という構図ですね。

朝廷の天皇は、その時点で最も強い勢力を持つ人物を積極的に承認することで権威を保ち続け、生き延びてきました。これは相対する勢力と直接戦って、やがて滅びていく運命をたどったヨーロッパの王朝とは、大きく異なる点なのです。

基本的に天皇が率いる朝廷は処世術に長けていて、幕府と持ちつ持たれつの関係をキープしながら単一王朝を維持してきたといえるでしょう。

天皇とは日本人にとってどんな存在か?

巨大な経済力・軍事力をもつ江戸幕府は、その気になれば朝廷を滅ぼすこともできたはずです。なぜ、そうしなかったのか。すでにおわかりでしょう。

ここまで述べてきたように、朝廷の天皇と有力な権力者は、持ちつ持たれつの関係を維持してきました。朝廷は時の権力を承認することで利用し、一方の権力者は天皇の権威を借りることで統一を進めました。権力者は天皇に権威づけてもらわなければ国をまとめ、政権を維持することができなかったのです。

それゆえ、朝廷の天皇勢力が当時の権力者に本気で逆らった「承久の乱」や「建武の新政」の際も、朝廷の天皇そのものを滅ぼすという発想はありませんでした。

これは細かく歴史を振り返ってみても、終始一貫した日本独自の国民性といえます。

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たとえば、飛鳥時代の蘇我馬子。当時は相当な権力者でしたが、本人が大王になろうとまではしませんでした。平安時代の藤原道長も平清盛もそう。2人とも、自分の娘を天皇に嫁がせて外戚となり、権威を利用しただけです。

室町幕府の3代将軍・足利義満も、天下統一直前だった織田信長も、天皇になろうとか排斥しようと思ったことはありません。天下を統一した豊臣秀吉も、朝廷を滅ぼすだけの力を持っていましたが、あえて関白に就任しています。天皇の補佐をすることで、農村の足軽出身という出自の低さをリカバーしようとしました。

日本史上最強である徳川家康の一族でさえも、朝廷の天皇から代々征夷大将軍・内大臣に任命される道を選び、朝廷を潰そうとはしませんでした。

明治時代以降も、どんなにいいポジションにいても、誰一人として天皇に成り代わろうと考えた人物はいないのです。

そういう意味では、太平洋戦争後、GHQのマッカーサーが天皇制を維持した判断は正しかったといえます。天皇や国のために神風特攻隊や人間魚雷として命を投げ出すような国民ですから、天皇制を廃止してしまったら何をするかわからないし、日本はまとまらないと考えた背景には、これだけの歴史があったのです。

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