ディズニープリンセスが炎上しない深いワケ 「女性の描き方」がいま企業に問われている

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治部:「女として」よりも「人間として」女性を描くことが、企業のビジネスとして都合がいい。ここがディズニーは腹に落ちているのだと思います。おそらく日本でジェンダー炎上が多いのは、そこが腹落ちしていないから。

中川くんが前回話してくれたようにエロや過激さを前面に押し出しても、企業が損をすると思っていない。「ジェンダー感覚に無意識でいるうちに、企業の見えない損がたまっていますよ」ということに気づいてほしくて、ディズニーを本で取り上げたんですね。

国内企業の好例は、パナソニックや茨城の潤工社

――時代とともに社会に合ったジェンダー感覚を取り入れる海外企業の例で、ディズニーを取り上げました。では、国内でうまくいっている企業を教えてください。

中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)/ネットニュース編集者。治部れんげ氏とは一橋大学の同級生同士。大学卒業後、博報堂で企業のPR業務を担当し、2001年に退社。CM・広告関連記事を担当する雑誌ライターとして活動後、『TV Bros.』編集者などを経て現在に至る。『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』『ウェブを炎上させるイタい人たち-面妖なネット原理主義者の「いなし方」』『電通と博報堂は何をしているのか』など著書多数(撮影:梅谷秀司)

治部:個人的にパナソニックのCMはうまいと思います。通勤時間に多くの人に見られることを想定した電車内のデジタルサイネージ広告です。映し出されているのは、子どもとお父さんが学童の帰りでたまに一緒に帰ってきたり、週末に子どもとお父さんが一緒に食事を作ったりするシーン。でもCMの中で「お父さんは早く帰ろう」や「長時間労働」などとは、言っていないんです。家電メーカーが男性の家事や子育てを啓蒙するのは、意義としては大きいですよね。

知り合いでリベラルな考え方の男性が、あのパナソニックのCMを「女性に媚びている」と言っていたのね。でもああいったCMを流すと、女性ばかり優遇しようとしていると思う男性は多いらしく。中川くんはあのCMを観て、どう思った?

中川:違和感はなかったよ。だってわが家は、俺が基本的に料理をするし。あれは、男があまり家事を手伝わない家庭に向けた女性視点のCMだと思った。

ネットでは「女様」や「障害者様」という言葉があります。これは、「女であるが故の特権」「障害者であるが故の特権」を持っていると感じている健常者の男性による言葉で、被害妄想も甚だしい。今回違和感を覚えた男性は、その「女様」を感じてしまったのかもしれないね。

――パナソニックのほかに、ジェンダー感覚に優れた国内企業はありますか?

治部:茨城にある潤工社という中小企業です。これも電車のトレインチャンネルで流しているCMで、「私が作っているハイパーポリマーが宇宙で使われている」というほのぼのとしたセリフで覚えている人もいると思います。

東京以外にある中小企業は今、採用が大変ですよね。潤工社のCMは明らかに採用を意識したもので、理系の女性も欲しいし、全般的な仕事をする人も欲しい。そこで女性にターゲットを絞ってリケジョをCMに出すのですが、どうもリケジョのイメージが……。

中川:小保方さんのイメージになっちゃう。

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