任期中実現に黄信号、安倍改憲に「断念宣言」 政権の政治的遺産づくりは「日ロ」へシフト
自民党は首相の意向を受け、審査会での党改憲案提示を目指してきたが、改正出入国管理法の審議での与野党が激しく対立。審査会の森英介会長(自民)が審査会開催を強行して主要野党が猛反発したこともあり、最終的に臨時国会での提示断念を余儀なくされた。
首相は9月の自民党総裁選で3選を果たすと、党総裁として臨時国会での自民党改憲案提示に改めて強い意欲を示した。その上で、10月2日に断行した党・内閣人事では同党の憲法関係の陣容も一新し、党改憲案の取りまとめを指揮する憲法改正推進本部長に下村博文元文科相、同案を党議決定する総務会トップの総務会長に加藤勝信前厚生労働相を起用。衆院憲法審査会の与党筆頭幹事には新藤義孝元総務相を充てた。3氏とも首相の最側近の有力議員で、党内では「中央突破の布陣」(細田派幹部)との見方が広がった。
ただ、この改憲シフトは野党の警戒心を呼び起こし、「安倍政権での改憲には反対」と叫ぶ立憲民主党などは審査会の開催自体に抵抗した。これに対し、下村氏が11月上旬にテレビ番組で「野党は職場放棄」と批判したことで事態は悪化。野党との交渉で苛立った新藤氏が主導し、11月29日に主要野党6党派が欠席したまま衆院審査会の開催に踏み切ったことで対立は決定的となった。
首相側近人事の「手痛い誤算」
衆院憲法審査会は今年、計5回開催されたが、実質審議はゼロ。参院憲法審査会も2月に自由討議を1回行っただけだ。だからこそ首相は「改憲シフト」で論議促進を狙ったわけだが、党内では下村、加藤、新藤の3氏が「憲法問題の素人」(自民幹部)とみられていることに加え、「憲法論議での野党とパイプもほとんどなかった」(自民国対)ことが「手痛い誤算」(同)につながった。
戦犯の1人とされた下村氏は8日の地方講演で、「日本だけが一度も改憲をしていない」と指摘した上で「世界からみたら護憲は思考停止だ。現状維持で何も変えようとしない」と護憲派を改めて批判した。首相最側近の萩生田光一自民党幹事長代行は9日のNHK討論番組で、来年の通常国会での憲法改正論議について「われわれは4項目を提案する」と述べ、改めて「自衛隊明記」を軸とする党改憲案の国会提示を目指す考えを力説した。
番組の中で萩生田氏が、憲法審査会などでの自民党の対応について「やや不備があった。おわび申し上げたい」と陳謝したのに対し、主要野党は「与野党合意でやってきた歴史をつぶして一線を越えた」(立憲民主)など攻撃した。萩生田氏とコンビを組む下村氏は「来年こそ国会での本格論議を」と意気込むが、与党内では「首相側近が力めば力むだけ、与野党本格協議は遠のく」(自民長老)との冷ややかな見方が広がっている。
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