低い参入障壁で激しい競争、パソコン業界の悲哀《特集マイクロソフト》
ダイレクトモデルは個人需要へ対応できず
パソコンの世界出荷台数はネットバブル崩壊後の01年を除き、一貫して増加している(下グラフ参照)。しかし、水平分業化されており参入障壁が低く、シェア異変はすさまじい。まさに再編・淘汰の連続。優勝劣敗の業界だ。
1990年代後半から06年まで、パソコン市場を牽引したのは個人ユーザーではない。企業や官公庁のIT投資需要だ。「ウィンドウズ95と98のブームで動かなかった個人消費者の多くは、その後もパソコンを購入していない。業界は眠れる消費者を本格的に掘り起こせないままでいた」(ガートナーの蒔田佳苗・主席アナリスト)。
この時期、企業需要に焦点を絞ることで急成長したのが、直接販売と注文生産による「ダイレクトモデル」を生み出したデルだ。
直販により小売店や商社など仲介者を一掃。生産面では部品メーカーに生産予測を流し在庫管理を促す代わりに、自社では極力在庫を持たない徹底したサプライチェーン・マネジメントを実現した。在庫日数はわずか3日という驚異的な身軽さで、部材の価格下落を速やかに製品価格に反映。ネットバブル崩壊後のデフレ環境下でも圧倒的な価格力で世界の企業に売りまくり、パソコンを急速に日用品化させた。
だが、そのデルに昔日の栄光の面影はない。「従業員の皆さん、年末年始に数日間の無給休暇を取得していただけませんか」。11月上旬、全米の従業員にマイケル・デルCEOから直々に電子メールが届いた。直近の8~10月期決算は前年同期比で売上高が3%、純利益も5%減少。クリスマス商戦も期待できない今、生産調整と人件費削減で利益を捻出する戦略だ。
デルの変調は06年後半に顕在化した。米国市場などでHPに比べ、個人向けノートパソコンの製品展開で後れをとってしまったことが原因だ。当時は翌07年1月のビスタ発売を控え、企業の間には買い替えを見送るムードが急速に高まり、市場成長を支えるのは新興国を含めた世界の個人消費者に移りつつあった。
この異変の直撃で、デルは01年以来占め続けてきた世界シェア首位の座をHPに奪取されるとともに、四半期ベースの売上高がネットバブル崩壊直後以来、約5年ぶりに前年同期を下回った。07年1月末には創業者のデル会長がCEOに復帰。手薄だったノートパソコンで多色展開などを強化。日米などの家電量販で販売を始め、ダイレクトモデルを“修正”した。並行して全従業員数の1割のリストラも進めた。
08年1月期には通期で増収に転じるなど、成長路線復帰の兆しも見えた。が、景気後退へ突入したことで産業界のIT投資は減退し、企業向けビジネスでの復調は一層遠のいた。「経済の変調にわれわれのビジネスモデルを適合させていく」。直近の業績発表に合わせてデルCEOはそう宣言した。「スマートフォンに参入する」「パソコンから撤退しデータセンター向けサーバー事業に注力する」--。業界では憶測が飛ぶが、変革の方向はまだ見えない。