フランス情勢不穏、「マクロン対策」の微妙感 最低賃金引き上げなどではおさまらない?

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だが、参加者のすべてが過激な行動に走っているわけではない。テレビは倒されたスクーターを起こすデモ参加者の姿も映し出す。パリでは治安維持隊がデモ参加者から防護用のマスクやゴーグルなどを押収。「法的に正しい措置なのか」といった議論も一部で巻き起こっている。

マクロンの演説を見る「黄色いベスト」参加者たち(写真:Philippe Wojazer / REUTERS)

筆者が滞在しているフランス第2の都市、リヨンではデモが小規模なものにとどまった。週末に備えた厳重な警戒が功を奏したとみられる。毎年恒例の一大イベント「光のフェスティバル」が予定どおり行われ、開催された6日から9日までの計4日間で200万人近い観客が足を運んだ。

クリスマス前の買い物は減っている

フランスでのデモやストライキは日常茶飯事。抗議行動を通じて自らの意思を表現するのは1789年の革命以来、脈々と受け継がれるフランス人のDNAともいえる。「デモに初めて参加したのは15歳のとき」。リヨンに住む40代の女性はそう話す。

もっとも、リヨンとほかの主要都市では温度差があるようだ。フランス全体で見れば、経済への打撃は深刻。テレビのインタビューに応じたパリの服飾店の経営者は「12月上旬だけで通常、年間売り上げの2~3割を稼ぐが、デモの影響で5割減った」と嘆く。

観光への影響も深刻だ。パリ中心部のシャンゼリゼ通りは例年、クリスマス前のイルミネーションを楽しむ人たちなどでにぎわうが、ホテルの予約などが激減しているという。ブリュノ・ル・メール経済相はデモに伴う混乱で、フランスの10~12月期の国内総生産(GDP)が0.1%押し下げられるとの見通しを示した。

今回、マクロン大統領は大胆な解決策を打ち出したが、これで事態が収束に向かうかどうかは極めて流動的だ。「ジレ・ジョーヌ」を着たデモ参加者の1人はフランスのニュース専門局「BFMTV」のインタビューに対し、「すべてのフランス人が失望している。大統領は譲歩することを軽視しており、われわれはだまされない」などと答え、マクロン大統領の辞任を求めた。周囲のデモ隊も「われわれは疲れていない」などと気勢を上げた。

15日も抗議行動が開かれる可能性が高い(写真:Benoit Tessier / REUTERS)

「不服従のフランス」を率いる極左の政治家、ジャン=リュック・メランション氏も「5回目の行動が起きるだろう」なとど牽制している。

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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