47歳女性が病に悩む子供に「髪を捧げた」事情 髪を寄付するだけで誰かの心の支えになれる
日々の髪の手入れも重労働だった。「髪ににおいが付くのがいや」というこだわりから毎日洗髪。「ドライヤーを使って乾かし終えると、3人分の頭を洗ったような疲労感」だった。プールに行ってもスイムキャップの中に髪が収まりきらず、スーパー銭湯では髪を乾かすのに30分ぐらいかかるので「ドライヤーを独占して申し訳ない」と。だから、髪が長くなってからは水泳も銭湯も諦めてきた。
きっかけは「自分の見た目」
JHD&Cではメディカル・ウィッグに使用する毛髪の長さを「14センチ以上」と「31センチ以上」に定めており、牧野さんは「やるなら頑張ってみよう」と31センチを目指して伸ばしてきた。
ロングヘアになっても、きちんと切りそろえて十分な長さの髪を提供するためには、かなり伸ばす必要がある。途中で何度か挫折しそうになったが、ベテラン美容師に励まされた。
牧野さんが通う美容院「アロージュヘアー」の店主・小川美和子さんから、「髪は人にとって額縁のようなもの。髪が整っていることで、自信がわいてくる」と聞かされ、髪の大切さについて深く考えるようになった。
実際、脱毛が嫌でがん治療に抵抗を感じる患者は少なくない。ふさふさとした黒髪があって当たり前の子どもや若者にとって、失われるショックは大きい。牧野さんは心が折れそうになるたび、「髪がないことで、からかわれたり、いじめられたりして心に傷を負い、社会との関わりを諦めてしまう子がいる。そんな悲しい思いをしないよう協力したい」と自身を奮い立たせた。
小川さんの長女で美容師の幸子さんも3年半かけて伸ばした髪を切り、JHD&Cへ寄付した経験がある。小川さん親子の支えもあって、初志貫徹することができた。
3年半伸ばし続けた髪は、牧野さんのひじのあたりまであった。これでやっと十分な長さが確保できる。そこで、うなじの生え際の位置で8つに分けて束ね、切り落とした。髪の束は、JHD&C所定の「ドナーシート」と返信用封筒を添えて発送し、ヘアドネーション完了。残った髪は全体を整えてから洗髪して乾かし、牧野さんが「夢にまで見た」というショートボブに仕上げた。
髪を切ってもらいながら、牧野さんは「なぜ、ヘアドネーションに挑戦したのか?」について語りはじめた。理由は「見た目問題」だという。それは、顔や身体に先天的または後天的な見た目(外見)の症状を持つ当事者が、その見た目がゆえに直面する問題を指す。牧野さんも当事者だった。