限定正社員制度については、当初から制度を設けることで、逆に「非限定」である通常の総合職社員は"いつでもどこでも対応できる"という「非限定性」がますます強まってしまうとの懸念があった。総合職の働き方自体を見直そうという中で、グラデーションのように多様なケースが出てくることが想定される中で、限定と非限定の二分にするのが最適解なのかという疑問はあったのだ。
これに加え、実際に導入をした企業からも難しさを指摘する声が出てきている。労働経済白書によれば、限定正社員側に、正社員との違いについて不満があるかを聞くと、33.7%が不満と回答(正社員側の同制度に対する不満も19.7%)。
限定正社員からみた不満の理由でいちばん多いのが、不合理な賃金差(57%)。共有がしっかりとなされない情報が多い(37%)、不合理な昇進スピードの差がある(33%)なども指摘されている。ある金融機関を取材したとき、賃金は本来9割になるように設定したのに、実際にはそれ以上に差がついているという声もあった。昇進や考課に差が出ているということだろう。
JILPTでは勤務地限定正社員を導入した企業に、導入で生じたことを聞いている。そこでは「女性の採用がしやすくなった」(32.9%)、「女性の勤続年数が伸びた」(31.5%)、「女性の離職者が減った」(27.7%)などの回答が見られる。プラスの効果としてとらえられる反面、裏を返せば、女性ばかりが限定正社員を選ぶことで、間接的に賃金格差や昇進格差を是認してしまうという可能性も大いにある。
合理的な賃金差や昇進格差の難しさなどから、限定正社員制度を取り入れたものの廃止する企業、実質的にはあまり使っていない企業も出ている。こうした中、一部の社員に対して転勤をなくすという方式ではなく、そもそもの転勤ルールを見直そうという機運が出てきている。
転勤から手上げ制へ
日本経済新聞社が2017年12月にまとめた第1回「スマートワーク経営調査」によると、ポストなどを公開して応募者を募る「社内公募制度」は43.0%、就きたい職務を申請し異動できる「社内フリーエージェント制」は21.8%が導入していると回答。自らキャリアを選べる仕組みが浸透しつつある。
多くは新規事業など一部のポストにとどまる可能性もあるが、中には「社員の意思に反する転勤は一切廃止」というスタイルを取り始めている企業もある。たとえば、従来店舗間の異動が頻繁だった小売り関係の企業が、原則転勤禁止とし、各店舗で空席が出た場合には社内公募をする手上げ制に切り替えた事例がある。
このような仕組みを導入する場合に、きちんとポストの穴が埋まるには何を気を付けるべきなのだろうか。外資系のリテール大手で人事の責任者として指揮を執ったのち、現在は独立している株式会社Funleash代表取締役の志水静香氏は次のように話す。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら