「釣りバカ」原作者が語る喜劇へのこだわり 笑えるシーンを必ず盛り込むやまさき十三イズム

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やまさき十三(やまさき・じゅうぞう)  1941年宮崎県都城市生まれ。県立宮崎大宮高校、早稲田大学第一文学部卒業後、東映東京撮影所の助監督となり、「プレイガール」「柔道一直線」「キイハンター」などの作品にかかわる(一部では山崎充朗の名前で脚本を執筆)。その後、漫画原作者に転向。「釣りバカ日誌」(画:北見けんいち)で一躍有名に。同作で82年度(第28回)小学館漫画賞を受賞。88年に実写映画化され、シリーズ計22作を誇り、2002年にはテレビアニメ化。連載35年を迎え、「国民的サラリーマン漫画」と呼ばれるまでになる。その他の漫画原作に「初恋甲子園」(画:あだち充)、「おかしな2人」(画:さだやす圭)、「愛しのチィパッパ」(画:北見けんいち)などがある。

――『釣りバカ日誌』の主人公・ハマちゃんは宮崎県出身で、彼の大らかなキャラクターは、宮崎という土地柄に培われていると聞きました。やまさきさん自身も宮崎県出身で、本作も宮崎県が舞台となっています。宮崎のよさはどこにあるのでしょうか?

基本的に人にやさしいですよね。それからいい意味で楽天的。できるだけそういう人柄が、自然と出てくるようになればいいなと意識はしました。

――やまさきさんはいつも喜劇的なお話を書かれていますが、そのときに心掛けていることはありますか?

夜8時ぐらいに地下鉄に乗ったときの話なのですが、一杯ひっかけた感じの若いサラリーマンがほろ酔いで乗ってきて、向かい側でその日発売された『ビッグコミックオリジナル』を読み始めたのです。巻頭に僕のマンガが載っていた号だったので、妙に気恥ずかしく、居心地が悪かったのですが、マンガを読み終わってどうするのかなと思いました。雑誌を棚にポンと捨てられたら、僕の負けだなと思って……。でも彼は最後に「クスッ」と笑ってくれたんですね。それで僕はホッとしました。

クスっと笑ってくれたらそれで役割は完結する

僕らは難しくテーマを考えたりしがちですけど、そうではないんだなと。仕事帰りのサラリーマンが電車の中でマンガを読み切った後、クスッと笑ってくれたら、それで僕の役割としては完結するんだと。そう思ったら、仕事がやりやすくなりました。原作を書くときには、必ず笑わせるシーンをひとつは盛り込むこと。どんな話を作るにしても、それは心掛けるようにしています。

――『あさひるばん』にも、かなり笑いが詰め込まれていたと思います。

映画というものは、もちろん計算して書くところもあるのですが、それだけではなく、意外とある種のハプニングが、多く取り入れられるものだと思いました。たとえば山寺宏一さんが寝転がりながら、ふいにおならをするというくだりも、最初からあったわけではない。そういうふうにある種のハプニング、役者さんのハプニングだったり、パフォーマンスだったり、スタッフのひらめきだったり、そういったことで、笑いがずいぶん引き出せるものだと感じました。

――今回、ご自身の監督業を振り返ってみていかがでしたか?

ずっと映画から離れた72歳が、何を血迷ったのかと思いますよ(笑)。でもやはり基本的に映画のスタッフは優しいですね。多少、間違えたりしても大らかに受け入れていただいて、なおかつ膨らませてくれた。そういった意味では気を遣っていただいたかなと思います。本当に感謝しています。

――また撮りたいと思いませんか?

正直言ってクタクタですね。やはり映画というものは、本当に大勢の人にお世話になりながら完成するものだと、あらためて思いました。もちろんそう思ってはいたのですが、実際にやってみると、思っていた以上でした。しかし映画を作ったからには、一緒に作った人のためにも、そして宮崎の人のためにも、ぜひとも公開がうまく進んでくれればいいなと思っています。今はそれだけで精いっぱい。もちろん、映画がそんなに簡単に続けられるほど甘くないことは知っていますし、とにかく今は公開が成功すればいいなと。それだけですね。

――主役3人のやり取りも面白かったですし、もし映画がヒットすれば、続編の構想も持ち上がるのではないでしょうか?

そこは考えないことにしています(笑)。プロデューサーからは小突かれはしていますが、考えるのにはまだ早いですね。

――それでは最後に、これから映画を見る方にメッセージをお願いします。

僕もそうでしたが、40代や50代といった人生の半ばで、これでいいのかと落ち込んだり、迷ったりすることがあると思います。それでも昔の仲間と会うことによって、もう一度生きる元気が出てくるという話なので、ぜひ、見ていただけたらと思っています。

(撮影:風間 仁一郎)

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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