圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり、人類は2階層に分断する

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――テクノロジーの進化によって、人類は幸せになれるのでしょうか。

歴史を見ればわかるように、人類は新しいテクノロジーを生み出すことで力を獲得してきたが、その力を賢く使う術を知らない、ということが往々にしてあった。

ユヴァル・ノア・ハラリ/イスラエルの歴史学者。1976年生まれ。英オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻し博士号を取得。現在はエルサレムのヘブライ大学で歴史学を教える。最新作に『21 Lessons for the 21st Century』(邦訳未刊)

たとえば、農業の発明によって人類は巨大な力を手に入れた。しかし、その力は一握りのエリートや貴族、聖職者らに独占され、農民の圧倒的大多数は狩猟採集を行って生きてきた祖先よりも劣悪な生活を強いられる羽目になった。

人類は力を手に入れる能力には長けていても、その力を使って幸福を生み出す能力には長けていない。なぜかといえば、複雑な心の動きは、物理や生命の法則ほど簡単には理解できないからだ。

石器時代に比べて人類が手にした力は何千倍にもなったのに私たちがそこまで幸福でないのには、こうした理由がある。

農業革命によって一握りのエリートは豊かになったが、人類の大部分は奴隷化された。遺伝子工学やAIの進化がこのような結果を招かないように、私たちはよくよく注意しなければならない。

「無用者階級」が生まれるかもしれない

――AIのような先端テクノロジーがもたらす人類の未来像とは、どのようなものでしょうか?

ホモ・サピエンス(人類)はかつて、動物の一種に過ぎなかった。人類が大人数で協力できるようになったのは、私たちに架空の物語を創り出す能力が備わっていたからだ。人類は大人数が協力することで、この世界の支配者となった。 

そして今、人類はみずからを神のような存在に作り替えようとしている。(遺伝子工学やAIといったテクノロジーによって)創造主のような神聖なる力を、今まさに獲得しつつあるということだ。

人類はラテン語で「賢いヒト」を意味する「ホモ・サピエンス」から、「神のヒト」としての「ホモ・デウス」にみずからをアップグレードしつつある。

最悪のシナリオとしては、人類が生物学的に2つのカーストに分断されてしまう展開が考えられる。AIが人間の能力を上回る分野が増えるにつれ、何十億人もの人々が失業者となる恐れがある。こうした人々が経済的に無価値で政治的にも無力な「無用者階級」となる。

一方で、ごく一部のエリートがロボットやコンピュータを支配し、遺伝子工学を使って自らを「超人類」へとアップグレードさせていく可能性すら出てきている。

もちろん、これは絶対的な予言ではなく、あくまで可能性にすぎない。が、私たちはこのような危険性に気づき、これを阻止していく必要がある。

私が『ホモ・デウス』で論じた不平等とは、人類がこれまでに経験したものとは比べものにならない圧倒的な不平等だ。

『週刊東洋経済』12月1日号(11月26日発売号)の特集は「データ階層社会」です。
林 哲矢 東洋経済 記者

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はやし てつや / Tetsuya Hayashi

日本経済新聞の記者を経て、ハーバード大学(ケネディスクール)で修士号。『週刊東洋経済』副編集長の後、『米国会社四季報』編集長。

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