《介護・医療危機》人材難、重度化対応に苦慮、特養ホームは火の車
介護職員の確保に苦慮する特別養護老人ホーム(以下、特養)が最近、急増している。
東京都足立区に2007年6月オープンした個室ユニット型の特養「千住桜花苑」(定員100人、ショートステイ20人)。近藤常博施設長は開設前から現在までの2年間、職員の確保に苦労を重ねてきた。
11月、近藤氏は千住桜花苑が属する社会福祉法人聖風会の採用活動で、岩手県盛岡市内の介護福祉士養成校4校を訪問した。だが、「予定人数を確保できなかった」(近藤氏)。
学生には、(1)採用試験受験のための往復交通費を法人が負担する、(2)採用が決まれば、ひと月に住宅手当1万2000円を支給する、(3)支度金12万円を支給する、との条件を提示したが、反応は鈍かったという。
聖風会では09年度の新入職員を35人確保する計画だが、現在までに17人しか集まっていない。
「大学、短大、専門学校卒業生が確保できない場合は、ヘルパー2級資格を持つ高卒を採用せざるをえない。ただ、その場合は実地教育に時間を費やさざるをえない」(近藤氏)。
深刻な人材確保難 ショートステイ閉鎖も
聖風会は都内に6カ所の特養を持っている法人だ。採用活動にもおカネをかけており、08年度は1000万円の予算を計上。が、予定の人数を確保できない場合は、「ショートステイを再び閉鎖することになる。本体の稼働率9割以上の維持を優先せざるをえない」(近藤氏)ためだ。
千住桜花苑では、ショートステイ2ユニット(1ユニットは定員10人)のうちの1ユニットを2年以上も開けなかった。同ユニット(下写真)は9月、オープンにこぎ着けたが、再び閉鎖の可能性が強まっている。桜花苑では職員増員のメドが立たないため、昨年10月、11月にはショートステイ利用者の申し込みを一時ストップした。
特養の人材確保難は、首都圏全域に広がっている。「特に危機的」といわれるのが、横浜市内だ。
「横浜市の介護現場を救うためのお願い」と題した資料を作成したのは、横浜市社会福祉協議会の高齢福祉部会。竹田一雄部会長(社会福祉法人若竹大寿会理事長)は「横浜市の人材難は全国で最悪」と指摘する。
資料では「横浜市内の人材難の事例」として次のような記述が並ぶ。
「毎年1600人強の新規人材が必要にもかかわらず、市内の介護福祉士養成校の07年度卒業生はわずか175名」「半年間、応募者がいない施設が続出し、新規施設はほとんどが開所1年以上かかっても人員不足のため全ベッドを開けられず、経営危機の状態。また、既存施設でも一部ベッド閉鎖が始まっている」
「このままでは、経営基盤が弱い施設から成り立たなくなる」と竹田氏は警鐘を鳴らしている。