《介護・医療危機》人材難、重度化対応に苦慮、特養ホームは火の車

介護報酬減で悪循環 ひそかに入浴回数削減も

横浜市内の特養の窮状は、国の介護報酬の決め方とも深い関係がある。特養に関する介護報酬は、東京都23区、横浜市などの大都市部、地方部など五つの地域区分によって差が設けられている。しかし、その差が最大4・8%であるのに対し、介護労働者の1カ月の平均実賃金格差(47都道府県)は最大33%(07年度、介護労働安定センター調べ)。特養では総費用の約6割を人件費が占めているため、大都市部の特養は恒常的に厳しい運営を強いられている。しかも特養の介護報酬は03年度、06年度改定で計8・2%も削減されている。その結果、人件費に手をつけざるをえなくなり、景気回復局面で人材確保難を招いた。

人員の確保ができないと、介護報酬の大幅な減額というペナルティを被る。特養の場合、入所者(定員)3人に対して1人の介護・看護職員の配置が義務づけられているが、これを満たさない場合には、介護報酬が3割も削減される。

昨年6月、東京都文京区立で民間事業者に運営を委託されていた特養ホーム「くすのきの郷」が、ボランティアとして派遣されたフィリピン人女性を職員と偽って夜勤に組み入れ、介護報酬を不正に請求したとして、東京都は区に対し事業者指定の取り消しを行った。不正行為は批判されるべきだが、この事件の背後にも、人材確保難があった。

「思い出したくない話」と躊躇しながら介護福祉士の田中悟さん(仮名)が語り始めたのは、07年夏まで勤務していた特養での出来事だ。この特養では、寝たきりの高齢者への特別浴(介護機器を使用した入浴)の回数を週2回から1回にひそかに削減。離職者の急増に対する職員の補充が追いつかなかったために、シワ寄せが高齢者に及んだ。

特養ホームの入浴回数は厚労省の省令で「週2回」と定められている。違反が見つかり、改善が見られない場合は、都道府県知事による指導や勧告、業務停止の対象となる。

一般に開設時期が新しい施設ほど、特養の経営は厳しい。特に「新型特養」と呼ばれる個室ユニット型タイプの施設は、厚労省の政策変更による打撃をまともに被っている。

「独立行政法人 福祉医療機構における借入金返済期間延長による猶予措置について」と題する要望書を、厚労相に提出したのは、社会福祉法人同和園(京都市)。要望書に名前を連ねた特養ホーム同和園の橋本武也園長は、05年10月の介護報酬改定(食費・居住費の自己負担化)以来、厚労省の新型特養に対する政策を強く批判してきた。

特養の新規開設および建て替えは、03年度以降、個室ユニット型に限るとされたうえ、国からの補助金が従来の3分の1に削減。そのため、新設の特養は機構や民間銀行からの借り入れを余儀なくされた。だが、返済原資となる利用者からの食費・居住費の上限額が低く抑えられたうえ、06年改定で介護報酬も削減。その結果、機構への借入金返済に支障を来す施設が出てきた。建物の減価償却期間40年に対して、返済期間が最長20年しかないためだ。

同和園は食費・居住費に関する報酬改定後の05年度以降、収支が赤字に転落。07、08年度の2年にわたり、返済猶予を受けている。橋本氏は機構への返済は30年への延長が必要と主張する。

待機者が35万人を超す中、職員さえ確保できれば、特養は高い稼働率を維持できる。しかし、「昨年度は99%の稼働率ながら収支はトントン。人材難で予定の人件費に達しなかったことが逆に押し上げ材料になった」(07年4月にオープンした新型特養ホームこぐれの里〈=東京都練馬区=〉の加藤雄次施設長)。

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