「新宿鮫」大沢在昌が短時間しか働かない理由 「長時間粘ればいい仕事になる」は勘違いだ

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――もう1人の自分とは、どのような役割を?

つねにもう1人の自分がいるんです。熱くなって書くと、主観的になって、読者のことを考えていない文章になっちゃうのね。ものすごく物語にのめり込んで、主人公の気持ちになって高揚しているけど、「待て待て、オーバーヒートするな」「急ぐと読者を置いてけぼりにしちゃうよ」と、斜め後ろから見ている自分がいることはあります。

――釣り、ゴルフ、料理、ゲーム、商店街巡りなど多趣味なことで知られています。そういった時間を確保するため、効率的に仕事をしている部分もあるのですか。

働くためじゃなく、遊ぶために生きています。仕事をしているときも、「宿題を早く終わらせて遊びに行こう」みたいな精神でやっています。だから仕事が終わって何もしない日って、ないですね。つまらないから。仕事をやろうって決めて、終わらせて、(趣味の)商店街巡りや飲みに行ったりしますね。

人の評価だけに頼るとつらくなる

――会社組織に所属していると、自由な生き方が難しいこともありますが、アドバイスはありますか。

やりたいことをやればいい(撮影:風間仁一郎)

やりたいことをやればいいんです。つらいことも、楽しいこともあるのが人生なんだから。仕事がつらければ、それ以外の時間にやりたいことをやればいい。趣味が何もないとしたら、まずそれを見つけようと。あなたに釣りやゴルフを手ほどきして、「面白いからやってごらん」って言ってくれる神様はどこにもいないんだから、まずあなたが楽しいと思うことを見つけるんだと。そしてつらい仕事と向き合うときに、「終わったら好きなことができる、だから頑張ろう」と思えばいいんじゃないでしょうか。いちばんつらいのは、クリアしても自分には何の喜びもないっていうことでしょうね。それだとつらいし、最後ははじけちゃうよ。

『漂砂の塔』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

あとはどんな組織であっても、評価は人が決めるわけじゃないですか。数字を出していない人間が出世したり、そういうことがあるのが組織だから、そこに寄りかかっていると思いどおりにいかなくて、イライラしちゃうことってあると思うんですね。

選考委員が決める文学賞だって似たようなことはあります。俺も(選考委員を)やっているからあまり言えないんだけど、勝手に候補にして勝手に落として、難癖付けられるわけだからね。評価や昇進だってもしかしたら相手の気分次第かもしれない。そうした人の評価に頼っちゃうと、世の中が許せなくなっちゃうときが来るから、それとは別に努力しようと言いたいですね。

――『漂砂の塔』や『新宿鮫』では、1人で敵に立ち向かう主人公が描かれています。彼らと大沢さんの通ずる部分はありますか。

サインを頼まれたときに、「自由は孤独で贖(あがな)え」って言葉をよく書くんです。自由でいたいなら、他人を頼るなよと。好き勝手できない時間があるから、好き勝手ができる自由を得られているわけなんだと。

俺はブランド品とか高級な腕時計とか洋服とかあまり興味なくて、求めているのは1つの状態。ゴルフや釣りや飲みに行きたいと思ったら行けて、何でも好き勝手できる。そんな理想の状態をつねに求めていて、それがいちばんぜいたくなんだなって気がするの。自分が何に興味があって、何をぜいたくに思うのか。考えてみるのは何歳からでも遅くないと思いますね。

肥沼 和之 フリーライター・ジャーナリスト

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こえぬま かずゆき / Kazuyuki Koenuma

1980年東京都生まれ。ルポルタージュや報道系の記事を主に手掛ける。著書に『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』(青月社)、『フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。』(実務教育出版)。東京・新宿ゴールデン街の文壇バー「月に吠える」のオーナーでもある。ライフワークは愛の研究。

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