同じ感覚で、前述の読書会・猫町倶楽部にも参加。恋愛には発展しなくても、読書や文化的なことが好きな人と語り合いたいと思った。そして、猫町倶楽部で信一郎さんと出会う。
直美さんの隣で礼儀正しく座っている信一郎さんの話も聞きたい。彼はまっさらな未婚であり、恋愛経験自体が皆無に等しかったという。
「44歳までは『オレはダメだ。他人と仲良くなれない』という気持ちが強かったです。学生時代は部活すらやっていないし、友だちもほとんどいません。父のことがすごく嫌いな母の影響が強かったのだと思います。僕と姉たちは子どもの頃から父の悪口を母から聞かされて育ちました。末っ子長男の僕は特に母との一体感が強かった。そのせいなのか押しが弱い性格になってしまったんです」
転機は映画「モテキ」
そんな信一郎さんが44歳のときに何が起きたのかが気になる。運命の人との出会いではない。運命を変える映画に出会ったのだ。
「大根仁監督の『モテキ』です。すごく情けない主人公が少しずつ積極的になっていくストーリーですよね。こいつでもやれるならオレもやれるんじゃね?という気持ちになりました」
映画でここまで気分が高揚するのは文化系男子の証である。信一郎さんはネット情報を集め、自分には「ゆるめの婚活パーティー」が合いそうだと判断。少しずつ参加することにした。
「3人の方とカップルになることができ、何度かデートをしたこともあります。でも、僕は女性との関係性を構築するスキルが圧倒的に不足しています。何を話せばいいのかもわかりません。結婚する以前に、人並みに女性と付き合ってみたいと痛切に思いました」
信一郎さんはスキル向上の努力をした。好きな作家の恋愛指南本を擦り切れるほど読み、恋愛カウンセラーの指導も受けたのだ。あいづちの重要性、会話のキャッチボールなど、基本中の基本から。ちなみに、のちに直美さんとデートするようになってからもカウンセラーに逐一報告し、アドバイスの通りに行動し、最後にはちゃんと告白して成功するに至る。
信一郎さんが筆者と最初に出会ったのは、今年初めのことだ。ある結婚相談所のパーティーに呼ばれ、ゲストスピーカーとして少し話をした。そのときに信一郎さんは『モテキ』を観たときに近い感想を持ったという。
「婚活パーティーでモテる男性は、見るからにエネルギッシュで声が大きい人です。そんな人を無理に真似してもうまくいかず、そのたびに自信を失うことの繰り返しでした。でも、大宮さんは物腰が柔らかくて声も小さかった(笑)。それでも女性のお客さんがたくさん来ていましたね。僕も大宮さんみたいな方向性ならばできるかも、とヒントをもらえたんです」
筆者は声が小さくて聞き取りづらいことにコンプレックスを抱いているが、それが信一郎さんには勇気を与えたのならば幸いだ。
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