設備投資8四半期ぶり減少は景気悪化の前兆 人手不足や五輪対応だけでは力不足

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企業の経常利益と実質民間設備の時差相関によると、経常利益と実質民間設備はラグ2四半期程度を伴って高い相関がある。企業収益の改善ペースが鈍化すれば、2四半期程度遅れて設備投資にも影響が出てくるだろう。

なお、研究開発の関連投資が多く計上される知的財産生産物についても、企業収益に対して4四半期程度のラグを持って高い相関があることが分かる。先を見据えた投資も、企業収益の改善なしに増加は見込みにくい。

また、設備稼働率の状況をみると、能力増強のための投資の条件が満たされているとは言いがたい。製造業・非製造業ともに足元で稼働率が高まっている様子はないからだ。設備稼働率対比でみれば、製造業を中心に設備投資は過剰であると言える。

意外にも人手不足対応の設備投資は大きくない

足元で必要以上に設備投資が行われている理由として「人手不足問題」への対応が考えられる。

設備投資の目的は、大きく分けると(a)生産能力増強のための設備投資、(b)既存設備の維持・更新、の2つとなり(下記の式)、「人手不足問題」への対応は概念的には後者に含まれる。

設備投資額=生産能力の増強投資(a)+ 既存設備の維持更新投資(b)

ここで、上式の右辺第1項は、製造業については製造工業生産能力指数の推移を代理変数にできる。非製造業については、能力指数が存在しないことから、第3次産業活動指数の長期平均(今回は過去6年平均)を代理変数とする。

これらを用いると、上式の関係から人手不足問題への対応を含む既存設備の維持更新投資の規模を逆算することができる。

今回の推計によると、人手不足問題への対応を含む既存設備の維持更新投資は直近では年率換算で製造業が15.3兆円、非製造業は24.4兆円程度あることが分かった。

製造業については、2016年以降、急激に増加しているが、金融危機前における維持更新投資の規模と比べて金額が大きいわけでない。むしろ、金融危機以降に抑制されていた維持更新投資が回復してきたと解釈できる程度の水準である。既存設備の維持更新投資を行う中で、人手不足問題への対応を考慮した投資が含まれている可能性もあるが、製造業においては人手不足問題による設備投資の押し上げ効果はそれほど大きくないとみられる。

一方、非製造業(第3次産業)については、既存設備の維持更新の規模が緩やかに拡大している。2015年末以降では、年間0.3兆円程度は維持更新投資が増えている。しかし、これは民間企業設備投資全体の約0.3%に過ぎない。非製造業においては、人手不足対応のための設備投資のニーズがゼロではないが規模は小さい。「人手不足問題があるため、設備投資は継続的に伸び続ける」というには頼りない規模である。

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