公共交通「住民はタダ」、なぜ実現できたのか 日本と欧州は「市民サービス」の考え方が違う
市民と書いてあるように、観光客を含めたタリン以外の居住者は従来どおり有料であり、これが残りの10%を賄うという計算だった。
「無料化にはもうひとつの理由がありました。自動車交通の削減です。前述の経済危機の際にも、マイカー移動は減らず、むしろ増えていきました。タリンの人口は約45万人で、海沿いの平地にあるためもあり、環境面では問題はありませんでした。ただし交通集中は問題になりました。そこで駐車場料金を、市の中心部では1時間あたり6ユーロ、周辺部は4.8ユーロに引き上げ、代替手段の意味も込めて公共交通無料化を導入しました。結果として市内中心部では自動車が減少しました」
エストニアは電子国家としても知られている。国民はeIDカードを持ち、選挙の投票を含めた行政手続きはオンラインで完了する。運転免許証やEU内パスポートの代わりも果たす。電子化の一環として無料化を導入したわけではないというが、現状ではeIDカードが乗車券代わりになっているので、関係はあると言える。
公共交通は有料が当然と考える多くの日本人にとって、まず気になるのは財源だ。これについては個人所得税を充てた。公共交通は住民のための交通という位置付けであり、働く場所ではなく住んでいる場所を基準にした。無料化によって都市の価値を高め、住む人を増やしたいと考えたのだ。結果は予想以上だった。
無料化で人口が増え税収拡大
「無料化は多くの人にとって刺激になったようで、タリンの人口は増加しました。その結果、2012年から今まで、人口は41.6万人から45万人に増えました。その結果、税収が著しく増加しました。1000人ごとに約100万ユーロと計算すると、現在は控えめに見ても3000万ユーロ増えていることになります。市民の無料乗車料金は毎年1200万ユーロと計算されますので、税収増加が失われたチケット収入の2倍あまりに相当しているのです。当初は緊急性の高い社会経済対策でしたが、結果的には都市の財政問題の解決策を見つけることになりました」
税収増加は公共交通のサービス向上にもつながった。2013年までは約10年だったバス車両の平均車齢は約7年になり、路面電車は欧州からの資金調達とあわせてネットワーク再建がなされ、車両の半分は新型の低床車になった。昨年9月には空港への延伸が実現し、2年後をめどにフェリーの旅客ターミナルへの延長も行われるという。
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