公共交通「住民はタダ」、なぜ実現できたのか 日本と欧州は「市民サービス」の考え方が違う

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フランスと言えば、パリもアンヌ・イダルゴ市長が今年3月に無料化を検討するとアナウンスしている。このときはタリンを例として挙げていた。

パリは以前、大気汚染が激しい日に限り、自動車交通削減を目的として無料化を実施した実績がある。その後も状況が好転しないことから、上記のような発言に至ったのだろう。

さらに同時期には自動車産業を主力とするドイツでも、連邦政府が公共交通の無料化を検討しているという報道があった。こちらも大気汚染が原因であり、早ければ年内にもエッセンやマンハイムなど複数の都市で試行されるという。

他都市が参考にするタリンの事例

アラキュラ氏のもとにはチェコの首都プラハの専門家グループから、無料化の可能性について相談が舞い込んできているという。ルーマニアの首都ブカレストでも関係者と会う予定があるという。同氏の見解では、大都市では環境保護、中小都市では空間確保が主要な理由になっているとのことだった。

タリンはバスのほかトロリーバスも運行している(筆者撮影)
トラム開業130周年を記念して製作されたレトロ風車両(筆者撮影)

筆者は移動には相応のコストを支払うべきと考える。しかし都市内の公共交通は、学校や図書館と同じように市民サービスという側面もあるわけで、無料化という方向性は理解できるし、欧州の複数の国がその方向に進みつつあるという事実を教えられると、ひとつのトレンドになるのではないかという予感もしている。

しかしわが国の公共交通のように、運賃収入を原資とする考え方では、無料化は未来永劫無理だろう。欧州では公共交通は税金や補助金で支えることが常識になっているからこそ、その部分の拡大による無料化という考えが自然に出るのではないか。さらに言えば、欧州の都市交通は1都市1事業者が一般的だ。これもまた税金や補助金の投入、そして無料化というプロセスを取りやすい。

タリンの実例を紹介した真の理由はここにある。日本もいますぐ公共交通を無料化せよという気持ちはない。無料化やMaaSなど、最近欧州で実施されている公共交通改革は、公共交通は公が支えるという前提の上に成り立っており、日本もいち早くこの体制に移行すべきであると、多くの人に理解してもらいたいのである。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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