公共交通「住民はタダ」、なぜ実現できたのか 日本と欧州は「市民サービス」の考え方が違う

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エストニアの首都タリン。公共交通無料化はどのような経緯で実現したのだろうか(筆者撮影)

日本の公共交通は公営・民営を問わず、運賃収入を主体とした運営が当然とされる。だから鉄道・バスを問わず赤字になれば容赦なく減便や廃止が行われ、利用者減少に拍車が掛かるという負のスパイラルに陥ることが多い。

しかし欧米の公共交通は税金や補助金を原資とした運営が一般的になっている。筆者も昨年米国オレゴン州ポートランドの状況を書いた「『車優先』からいち早く転換した米大都市の今」などで報告してきた。

しかし欧州ではさらに一歩進んだ流れが生まれつつある。無料化だ。公共交通は運賃収入で支え、黒字赤字で判断するのが一般的と考えられる多くの日本人には信じられないだろうが、欧州には無料化を実現した都市がいくつもある。一国の首都として世界初の公共交通無料化を実現したエストニアのタリンを訪れた。

首都タリンの担当者に聞く

タリンはエストニア北部、バルト海に面した場所にあり、面積は159平方km、人口は約45万人。日本からの直行便はなく、バルト海対岸にあるフィンランドのヘルシンキからフェリーでのアクセスが一般的だ。

世界遺産に登録されたタリン旧市街には世界中から多くの観光客が訪れる(筆者撮影)

市内交通としては路面電車、トロリーバス、バスがある。ただし世界遺産に登録されている旧市街には交通は乗り入れず、歩いて楽しむ地域となっている。

筆者はタリン市役所を訪問し、担当のアラン・アラキュラ氏にまず背景を聞いた。

「無料化を始めたのは2013年1月1日です。リーマンショックに端を発する世界的な経済危機で、エストニアはとりわけ厳しい影響を受けました。GDPは18カ月間で約20%下落したほどです。市民の中から、公共交通の運賃が重荷になっているという声が寄せられました。それは市民の購買力などにも影響していました。緊急的な対策という側面もありましたが、社会経済的な必要性があると感じ、無料化に踏み切りました」

これまで何度か報告してきたように、欧米の公共交通は多くが税金や補助金を主体として運営している。タリンも例外ではなく、公共交通への公的補助金はすでに72%に達していた。これを90%に増やすことになった。居住者を対象とする地方国民投票が2012年に行われ、75%が好意的という結果になった。よって市民の無料化が実現したのである。

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