フランスの鉄道にみる日本の無人運転の課題 山手線での実現を阻むものは車両ではない

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フランス北部の都市リールの地下鉄1号線トリオロ駅を発車する「VAL208」(筆者撮影)

JR東日本が山手線や東北新幹線などで、運転士がいない無人運転車の導入に向けて検討を始めたというニュースが8月にあった。少子高齢化で今後、運転士や車掌などの不足が予想されるためで、すでに社内にプロジェクトチームを設置しているという。

ただし日本では東京のゆりかもめや神戸のポートライナーなど、新交通システムと呼ばれることが多いAGT(オートメーテッド・ガイドウェイ・トランジット)が、運転士のいない無人運転を実用化している。

一方欧州では地下鉄の無人運転の実例が見られる。開発したのはフランスで、VAL(Véhicule Automatique Léger/軽量自動車両の略)と呼ばれており、登場は1983年と、世界初の無人運転鉄道と言われるポートライナーのわずか2年後である。最初に導入されたのはフランス北部の都市リールであった。

欧州での地下鉄「自動運転」の実例

最近、そのリールの地下鉄に乗る機会があったので、歴史や機構、現状を紹介し、筆者がしばしば取材で接する自動車の自動運転との比較も交えながら、日本の鉄道への自動運転の可能性についても触れていきたい。

欧州の自動運転鉄道がリールから始まったのは、リール第一大学で物理学を専門とするロベール・ガビヤール教授が考案したシステムを採用したことが大きい。

日本の多くの都市同様、リールも第2次世界大戦後の高度経済成長で都市の拡散化が進み、交通渋滞や大気汚染に悩むことになった。トラム(路面電車)を残すことも考えたが、リールではこのガビヤール教授が考案した新しいシステムを採用することに決め、1971年に参加企業の国際コンペを行った。

VALという名称は当時から使われていたが、その意味は「Villeneuve d’Ascq à Lille(ヴィルヌーヴ・ダスク・ア・リール)」だった。ヴィルヌーヴ・ダスクはリールの東隣に位置する都市であり、この都市とリールを結ぶ交通を示していた。

運転席がない「VAL208」の車内(筆者撮影)

コンペの結果、同じフランスのマトラが開発を担当することになった。マトラは航空宇宙産業が本業で、その後自動車の世界にも進出。自動車レースのF1やル・マン24時間で優勝するなどしていたが、そもそもミサイルで名を成した会社であり、自立誘導の技術は相応に持っていた。

直後に工事が始まり、まず1号線が1983年に一部開業。翌年に13.5kmが全通した。続いて2号線の最初の区間が1999年に走りはじめ、翌年全線開通する。

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