フランスの鉄道にみる日本の無人運転の課題 山手線での実現を阻むものは車両ではない

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山手線に1カ所残る踏切(筆者撮影)

これに対して我が国の山手線では、知る人ぞ知る存在ではあるが踏切があり、沿線から線路に立ち入りができそうな場所もある。

3年前には信号ケーブルが燃やされる事件があった。この点をクリアしなければ自動運転導入は難しいだろう。

VALに話を戻せば、ゴムタイヤを使っている点も無人運転には有利だ。ゴムタイヤは高架線や地下線で気になる走行音が抑えられるほかに、加減速や登坂性能に優れるというメリットもある。このうち無人運転では、障害物が出現したときの衝突回避という場面で、減速能力が有効になる。

リールの地下鉄はこのメリットが実感しやすい。ポートライナーやゆりかもめより加減速、カーブの通過速度ともに明確に上だからだ。後者は案内車輪が我が国のAGTより太く大きいためもあるだろう。乗用車を思わせる通過速度である。

リール地下鉄1号線の距離は約13.5kmで、全18駅でありながら、所要時間は22分に留まる。15kmの間に17駅を持つ大阪メトロ長堀鶴見緑地線が31分を要していることを見れば、VALの加減速性能、曲線通過性能の高さがわかろう。

車両は1号線が第2世代のVAL208、2号線が第1世代のVAL206で、ともに全長約13m、全幅約2m(車名の数字は全幅を示す)という小柄な車両の2両編成だ。都市圏人口で100万人を超える都市の地下鉄としては小編成だと感じた。

自動車の自動運転に通じる部分も

地下鉄1号線と2号線が対面乗り換えできるリール・フランドル駅(筆者撮影)

その代わりリールの地下鉄は本数が多い。技術的には最短1分間隔での走行が可能とのことで、筆者が乗った平日の昼間も、1号線は1〜2分、2号線は2〜3分ごとに列車がやってきた。東京都心の地下鉄を上回る頻度だった。

無人運転は信号制御ではなく、集中制御室で全車両を運行管理しているので、ヒューマンエラーが少なく、きめ細かい制御が可能だ。加減速性能の高さと相まって、安全性を確保したまま運転間隔を詰めることができる。本数を増やしても運転士の増員は必要ない。無人運転を前提としたダイヤであると感じた。

これも自動車の自動運転に通じることである。全車両が完全自動運転になれば、前後左右の車間距離は今よりずっと短くて済み、同じ道路、同じ車両数であれば渋滞が緩和すると言われている。

フランスにおいては現状、VALはトラムに押されがちという立場であるが、少子高齢化を考えれば無人運転は有効な対策であることは間違いない。しかもリールの地下鉄は、無人運転を前提とした線路や駅の構造を採用し、短編成による高頻度運転を実現するなど、参考になる部分は多かった。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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