フランスの鉄道にみる日本の無人運転の課題 山手線での実現を阻むものは車両ではない
並行してマトラはVALを他の都市へも展開。同じフランスのトゥールーズやレンヌのほか、イタリア、台湾、韓国でも走りはじめた。パリやアメリカ・シカゴの空港内交通システムにも投入された。
しかし地元のリールでは1991年に政権が変わり、VALの整備より安価に済む、トラムの近代化による交通網整備に転換。軌間1000mmのメーターゲージのまま、イタリアのブレダ製低床車両を導入し、1994年にリニューアルが完了した。
VAL導入を考えていたストラスブールでも1989年の市長選挙でトラム推進派が勝利し、計画は中止された。こうした経緯もあってマトラのVAL事業は1995年に独シーメンスに移管され、2001年には会社名もシーメンス・トランスポーテーション・システムに変わり現在に至っている。
写真でおわかりのように、VALは鉄輪ではなくゴムタイヤを用い、走行車輪のほか水平方向の案内車輪も持つ。ポートライナーやゆりかもめと同種のAGTと見ることもできる。
自動運転実現に向けての課題は?
ただし1号線は路線両端の3〜4駅を除き地下を走り、2号線もやはり両端駅と都心の一部を除き地下線なので、地下鉄と呼ぶのがふさわしい。一方の地上駅舎には有名デザイナーの作品もあり、力の入ったプロジェクトだったことがわかる。
駅は地下・地上を問わず、軌道部分とガラスの壁で完全に仕切られた、いわゆる全面ホームドアとなっている。地上部分も高架あるいは掘割であり、地平を走ることはなく、踏切もない。
自動車の自動運転が実用化に向けて苦労している点の1つに、歩行者や自転車を含めた混合交通ということがある。現在実証実験を行っているのは、歩行者や自転車がいない高速道路上か、瞬時に停止できる時速20km以下というパターンが多い。
鉄道においても、無人運転を含めた自動化の実現には、歩行者や自転車、自動車との接触を防止する構造にすることが第一だと考える。その点でリールの地下鉄は今から35年も前に、軌道も駅も万全の対策を取っていた。
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