33歳母「自傷、DV、離婚」経てやっと得た幸せ 壮絶すぎる人生「今の自分は子どもがすべて」

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「でも不幸せな時期が長かったから、少々不満がある状態でも苦痛だと思わないんですよね。『殴られない』し『お金がなくならない』だけで、こんな幸せなことがあるだろうか?って。辛酸をなめすぎたせいで、何をなめても甘く感じるんです。

すごくささいなことでも幸せだな~って感じます。たとえば、レンタルビデオ店でアンパンマンを借りられただけでも、本当によかった!!って思えるんです。

子どもができてすぐにレンタルビデオ店に行ったら、夫が6万円ぶんも延滞していました。お客様センターで、必死に説明してやっと免除してもらえました。そんな障害を乗り越えてますからうれしさもひとしおなんです」

障害者手帳もあるため、比較的生活保護は取りやすい環境だ。電気、ガスが止まってしまうかなり貧窮した局面もあったが、申請せずに耐えた。

「もちろん重い病気にかかってしまったら生活保護に頼るかもしれません。でもそれまでは、なんとか頑張って働いて子どもを育てたいと思ってます。子は親の背中を見て育つって言うじゃないですか。働いている姿を見せたいんですよね」

「今の自分には子どもがすべて」

しかし三田さんにはハンディキャップも多く、仕事を見つけるのはなかなかに難しい。ハローワークなどで日中の仕事を探したが見つからなかった。

気分転換に母親と普段歩かない道を散歩していると、小さな街のパン屋さんがあった。とても雰囲気のよい店だった。アルバイトを募集していたのでメモして帰った。

お菓子はおてのもの(筆者撮影)

もともとお菓子などを作るのは得意だったので、パン屋さんは働きたい職種の1つだった。

「家に帰ってそのお店のパンを食べたらおいしかったので、バイト応募の電話をかけてみました。

まず『入れ墨が入っていても大丈夫ですか?』と聞きました。『気にならない程度なら問題ない』と言われました。オーナーにも私の子どもと同い年のお子さんがいて、母子家庭の私の事情を同情的に考えてくれました。

お店はとてもいい環境です。5月に入ったんですが、6月には私の誕生日にケーキをいただきました!! そんなことしてもらったのは産まれて初めてだったのですごくうれしかったです。本当に運がよかったですね」

そう語る三田さんの顔は晴れ晴れとしていた。6年前までどん底をさまよっていた人とはとても思えなかった。

「結婚して夫婦で子どもを育てている人をうらやましいと思ったこともあるけど、でも私は離婚したことですごく自由になったんですよね。私は自分の男性選びの目を信じられないんですよ。また新しい彼氏ができたらきっと暴力を振るわれると思うんです。だからもう彼氏はいらないかな?と思ってます」

三田さんは、「今の自分には子どもがすべて」だと語った。子どもができて人生が変わるというのは、本当にあるんだな、と驚いた。

筆者は、このささやかな幸せがいつまでも続けばいいなと思った。

村田 らむ ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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むらた らむ / Ramu Murata

1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。

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