小学校2年生の学芸会で、演じることの楽しさに目覚めた娘さんは、狩野さんに劇団に入りたいと直訴してきた。これに対して狩野さんは「おカネも出すし、レッスンにも連れて行くけど、願書は自分で書きなさい」と言い渡した。願書はさながら、企業へ就職活動で出す履歴書のようだったという。
「劇団に入りたいと思ったきっかけ(根拠)と応募(理由)などが求められるのです。将来の夢としては『女優になっていろいろな人の人生を生きてみたい』と書いていました。提出期限まで40日間あったので、いきなり書き出そうとする彼女をたしなめて、『志望動機として考えたことをメモに書きためてから書いてごらん。そうすれば劇団に入ってからも立ち返れて、後々、役に立つよ』と励ましました」
結果は合格。審査員からは「小学校3年生とは思えないほど、自分の言葉で自分のことを表現できている」というコメントをもらったのだそうだ。狩野さんは「夫も私も『なぜ?』が口ぐせなので、娘はなぜ?と聞かれることに慣れていますね」とほほ笑む。
娘さんは今、劇団でのレッスンのほか、唯一の習い事としてバランス感覚を養う体幹トレーニングにも励む。「考えるって、わかることが増えていくことだから楽しい。中学生になったら、演劇部に入りたいし、絵もやりたい。国語も好き。自分の考えを表現できる科目が好き」と屈託がない。
一方、5歳の息子さんとの日々のやり取りを通じて、未就学のうちからも自分で考え、自分の気持ちを言葉で表現させることの重要性を、狩野さんは感じている。
「最近、子どもの『キレやすさ』が言われますが、自分のことを客観視し、カッとならずに気持ちを言語化させるEmotional Intelligence(エモーショナルインテリジェンス)のアプローチが、この問題への救いになるのではないかと思っています。何か起きたら『じゃあ、どうすればいいか』と自分を客観視し、相手の立場に自分を置き換えて考えながら、言葉にさせてみるのです」
その際に大切なのは、「怒らないから話してごらん」と安全地帯を作ってあげることだという。同じ年頃の子どもを持つ筆者も、早速、試しているところだ。
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