安倍新内閣、いきなり「片山劇場」の帰結は? 自民党は早期決着、野党は引き延ばし作戦

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ただ、片山氏は「私はいつも1番」というプライドの高さと激しやすい性格などから、大蔵官僚時代からトラブルメーカーとして知られ、中でも霞が関の都市伝説となっているのが大蔵省主計官時代の「ボールペンぶん投げ事件」(当時の同僚)だ。

2004年の省内人事で女性初の主計官となった片山氏は、担当した防衛庁(現防衛省)との予算折衝で防衛費削減をめぐってトラブルを起こし、直属の上司が事態収拾に乗り出す騒ぎとなったという。その際、上司から厳しく叱責された片山氏が「突然激高して両手で机をバーンと叩き、手元のボールペンを壁に投げつけた」(元上司)という逸話だ。当時の上司は「そのボールペンが主計局の部屋の壁に突き刺さり、居合わせた全員が凍り付く中、ポトンと床に落ちた音が忘れられない」と今でも苦笑しているという。

その後、片山氏は2005年夏に小泉純一郎首相(当時)が断行した「郵政解散」で、自民党郵政改革反対派議員の「女刺客」として衆院選に出馬、当選して政界デビューを果たした。4年後の「政権交代選挙」では落選したが、翌年の参院選比例区で復活当選した。議員歴12年の閣僚適齢期で迎えた今回の内閣改造人事で、安倍晋三首相が唯一の女性閣僚として地方創生相に抜擢し、「新内閣の目玉閣僚」として改めて脚光を浴びることになった。

入閣時に首相から「女性閣僚2、3人分の力」と持ち上げられて有頂天だった片山氏を襲ったのが「文春砲」。しかも、文春が指摘した疑惑の核心は、片山氏のホームグラウンドでもある国税庁への「口利き疑惑」だった。続報として片山氏の音声録音まで公開される中、「訴訟中を理由にまったく説明責任を果たさない」(立憲民主)という片山氏の対応は、大手メディアの最新世論調査でも8割近くが「記者会見などで詳しく説明するべきだ」と回答するなど、国民的批判にもさらされている。

12月まで持ち越し、片山疑惑大炎上も

自民党内にも片山氏を擁護する声は少なく、同党幹部は「片山氏が釈明会見などをすれば、かえって藪蛇になる」と肩をすくめる。片山氏に委員会での答弁について、自民党国対幹部が「用意された答弁メモだけを読めと厳命している」というのも、「興奮してあらぬことを口走る可能性が大きい」(同)からだ。ただ、今後も野党側がねちねちと攻撃を続けると「どこかで暴発する」(首相周辺)との不安も拭えない。

第2次安倍政権発足後、2017年7月の稲田朋美防衛相(当時)を含め、3人の女性閣僚が辞任に追い込まれている。いずれも政治的不祥事が原因だ。とくに、2014年10月の小渕優子経済産業相と松島みどり法相の、政治資金がらみのダブル辞任は、首相の政権運営にも大きな打撃を与えた。

小渕、松島両氏が入閣したのは2014年9月初旬で、辞任したのはほぼ1カ月半後。とくに小渕氏はいわゆる「新潮砲」で事実上の更迭に追い込まれたものだ。この例に倣えば、今回の「片山劇場」の終幕は11月下旬がターゲットとなる。ただ、小渕、松島両氏も辞任理由は「国会混乱」で、首相らも「国会空転」などがなければ更迭しにくいのが実態だ。7日の補正予算成立後の与野党攻防の焦点となるのは入管難民法案や国民投票法改正案だが、野党側はこれまでのように閣僚の疑惑を重要法案の審議に絡めることには及び腰とされる。

そうした中、片山氏の名誉棄損提訴を受けての初公判は12月3日に予定されている。片山氏は「公判で多くの事実を明らかにする」として国会での説明を拒んでいる。ただ、公判開始は各メディアが改めて疑惑を追及する導火線になる。すでに、自民党内では重要法案処理のため国会を年末まで延長する案が浮上しており、国会攻防の最終局面で「片山疑惑」が大炎上する事態も想定される。このため、首相ら政府与党首脳も「片山氏がいつ自爆するかに怯えながら年の瀬を迎える」(自民長老)ことになりそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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