中国の「新車市場」が直面する曲がり角の正体 00年以降初マイナス成長へ、日本車に影響も

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中国の新エネルギー車(NEV)の販売台数は、補助金制度を含む一連の推進策により、2014年の7万台から今年1~9月に72万台へと急速に伸び、通年では前年比4割増の110万台に達する見込みだ。来年から一定の割合でNEV生産が義務付けられる中国のNEV規制に対応し、日系メーカー各社は一斉にNEV生産に乗り出した。

トヨタは8月、電気自動車(EV)「広汽ix4」を発売し、ホンダは自主ブランド車「理念」のEVモデルを年内に投入し、広州でEV生産能力(年間17万台)の整備を計画。日産は9月、中国で初の電気自動車(EV)「シルフィ ゼロ・エミッション」を発売した。エンジン車市場で構築した「シルフィ」のブランド力や部品の共通化による同モデルの販売増が期待される。

一方、今年からNEV市場の外資出資比率規制が撤廃されることで、外資系メーカーがNEV市場に集中して参入する可能性も出てきた。中国は国土が広大で気候は地域によりさまざまであり、充電スタンドをはじめとするインフラの未整備など、NEV販売を阻害する要因は少なくない。それでも中国政府の強力な政策による後押しによって、NEV市場は今後も確実に拡大していくものと思われる。

日系メーカーは中長期の戦略が必要

中国のモータリゼーションは、2000年代前半から沿海地域都市(1級・2級といわれる大都市)を中心に開始してきたが、2008年のリーマンショック以降は、政府の内需拡大政策により、中西部都市(3級・4級といわれる中小都市)に及んだ。

販売台数の平均伸び率を見ると、2001年~2007年の23%(市場始動期)、2008年~2014年の16%(高度成長期)に対し、2015年以降~2021 年(安定成長期)には約4%に減速すると予測される。すなわち、中国自動車市場はすでに安定成長期に突入していると言える。

短期的な視点で見ると、中国自動車市場の趨勢は、新車販売の動向を左右する政府の政策や規制などの影響を受けやすい。しかしながら、中長期的には市場のポテンシャルは依然として高く、これからも上昇トレンドを継続し、新車市場は2025年に3500万台規模に達すると予測される。

熾烈な市場競争が続く中、日系メーカー各社はエンジン車とNEVのバランスを取りながら、中長期的な戦略をもって生産・販売体制を構築する必要があろう。

湯 進 みずほ銀行ビジネスソリューション部 主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授

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タン ジン / Tang Jin

みずほ銀行で自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、中国自動車業界のネットワークを活用した日系自動車関連の中国事業を支援。現場主義を掲げる産業エコノミストとして中国自動車産業の生の情報を継続的に発信。大学で日中産業経済の講義も行う。『中国のCASE革命 2035年のモビリティ未来図』(日本経済新聞出版、2021年)など著書・論文多数。(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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