毎食「米3合食え」と迫られる野球少年の壮絶 午前0時まで泣いて食べる小5の絶望

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加えて、スポーツ少年の親が心掛けたいのは、補食の確保だという。放課後の練習など、おなかがすいた状態で始め、エネルギー不足の状態で体を動かすと脚つりやけがの原因になる。脳も糖質などをエネルギー源にしているため、頭も働かなくなる。よって、バナナやおにぎり、パンなどの補食を開始前に摂ることが重要だ。

中学校の部活動は、その観点から見て理想的ではなく、問題がありそうだ。一部の私立校以外は、食べ物を学校に持ってきてはいけないところが多い。

「小学生は平日なら一度帰宅して補食を摂れますが、中学生は昼ごはんのあと何も食べずに部活に入ります。栄養学的によくありません。学校としてのシステムを変えることを考えてほしい」(藤井さん)。

たとえば、部活生が持ってきたおにぎりなどを学校側が放課後まで預かっておくなど、工夫が必要だろう。

発育発達の面についても、もっと考えたほうがいい。藤井さんによると、小学生時代はどの競技も基礎技術を習得することが重要だという。小学生は技術、中学生は持久力。高校生から筋力に注目する。このような発達段階に応じたて指導すべきという考え方は、スポーツコーチングの世界では常識だ。

「少年野球の指導者や親御さんは、小学生の時期に何をいちばんやらなくてはいけないかを整理してほしい。小中学生の時期は、個々で成長の速さが違う。無理に体を大きくする時期ではありません」(藤井さん)

大人が勝利を求めすぎていないか

大きい子は打てる。打てれば勝てる――。そんな発想から“米3合の呪縛”が生まれ、子どもたちを苦しめていないか。まだまだ続く競技生活を考えれば、子ども時代には「野球は楽しいなあ」と感じることが最も重要なのに、大人が勝利を求めすぎている側面はないだろうか。

そんな理不尽は、すべての少年野球の現場で起きている事態ではなく、ごく一部なのだろう。だが、一方で子どもの野球離れが言われ始めて久しい。全日本軟式野球連盟に登録している小学生チーム数は、2011年度の1万4221に対し、2017年度は1万1792。6年間で2500弱のチームが消滅している。

少子化やサッカー人気に押されているとの見方も間違いではないかもしれないが、理不尽さが敬遠されている可能性も否定できないと筆者は考える。育成の環境が今の時代にあっているかどうか、点検することは無駄ではないだろう。

冒頭の成田教授は言う。

「食べることで苦しむなんて、少年スポーツに危険な側面があるという認識を持ちました。大人がきちんと新しい知識を学んで指導しなければ、子どもにとって悪影響でしかありません。指導者だって、その子を良くしたいと思っているはず。誰かがこうしているとか、そういった話を鵜呑みにしないでもっと勉強してほしい」

食事も、スポーツも、本来楽しむもの。この価値観を大人たちが共有することが何より必要だ。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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