アメリカのあまりに深刻な「ホームレス問題」 住宅価格高騰で家賃すら払えなくなっている

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もちろん、ホームレスとなるのを事前に阻止できるのであれば、政策の費用対効果も高く、理想的だ。しかし、そのためには住宅費も含めて、最低限の生活費をカバーするのに十分な収入を人々が得られるようにしていく必要がある。

全米3007郡のうち、連邦最低賃金の時給7.25ドルで働いてワンルームの家賃が賄える場所は12郡にしかない。住宅価格の中央値が150万ドルというサンフランシスコの場合、最低賃金で働くシングルマザーが生きていくには週に120時間働かなければならない計算だ。

アメリカでは3分の2近くの世帯が500ドルの突発的支出に備えた貯金すら持っておらず、ちょっとした不運が起きただけでホームレスとなりかねない。国民が路上に放り出されるのを防ぐセーフティネットも、複雑な手続きのせいで、利用を事実上阻まれるケースがかなりの割合に上る。

「住宅ファースト」で先行するユタ

対策の効果を上げるには、一時宿泊施設や食事の提供といった緊急措置だけでなく、長期的な施策も必要となる。このため、カリフォルニア州サンタクララ郡は、ホームレスに住宅や医療の提供を開始。ロサンゼルス郡は、元受刑者に職業訓練を施す専門組織を立ち上げた。住居の確保を最優先する「住宅ファースト」の政策で先行するのがユタ州だ。

住宅ファーストが理にかなっているのは直感的にもわかる。そもそも人々がホームレスになるのは家が足りないからだ。しかし、カリフォルニア州では、人口増に対処するだけでも年間18万戸の住宅を新たに造り続ける必要がある。今より10万戸以上も住宅供給を増やさなければならないということだ。しかもサンフランシスコではこの7年で雇用が8倍に増え、「手頃なアパート」の建築費は42.5万ドルにハネ上がっている。

住宅供給の拡大は対策の第一歩として不可欠だ。しかし、人々がホームレスとなる要因は複雑であり、さらに多くの手を打つ必要があることも忘れてはならない。

ローラ・タイソン 米大統領経済諮問委員会元委員長

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Laura Tyson

米カリフォルニア大学バークリー校教授。ロック・クリーク・グループのシニアアドバイザー。

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レニー・メンドンカ マッキンゼー&カンパニー元取締役

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