自殺した17歳息子の遺影を公開した父の思い 暴力で係争中顧問に学校は平然と指導させた

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元監督は前任校で全国制覇の実績もあり、その指導手腕は高く評価されている。そのため、指導の場にパワハラがあろうとも、部員も保護者も指導を仰ぎたいのかもしれない。

こうしてパワハラ認定教師たちは、部活動界を去ることなく、業界に居座り続ける。そして再びパワハラ指導を行うリスクは決して低くない。

なぜ、暴力は場所を変えて繰り返されるか

「パワハラ発覚→所属先(もしくは肩書)が変わって指導継続」が容認されているかぎり、場所を変えてパワハラが繰り返され、傷つく子どもを生むという連鎖は断ち切りにくい。

不来方高校でも、実は男性教師の指導者としての復帰を望む声は根強い。スポーツ庁や文科省は、指導者の再教育や責任追及以上に、保護者や選手のパワハラに対する意識向上に取り組むことが急務かもしれない。

さらに、不来方の案件では、岩手県教委のスポーツ指導におけるパワハラ意識の低さが露呈した。教育長は10日の県議会でこう発言している。

「(不来方高校バレー部は)強豪校なので、そういう指導は生徒の能力を開花させるためには普通のことだというような評価をしている生徒もいるし、保護者から現在も、部活に復帰してほしいという信頼を得ている面もある。ただ、一方で、それが客観的に証明できるのはなかなか難しいということで、第三者委員会を設置するとした」

これを聞いた草場弁護士は「能力を開花させるためにパワハラ指導が必要だということを証明するための第三者委ではない。パワハラ指導が原因で命が失われたかどうかを遺族は知りたいのでないか」と指摘する。

教育長の発言以外に、第三者委員会のメンバーの選抜に遺族の意向が加味されないことに遺族は「大きなショックを受けた」(草場弁護士)。そこから実名報道に切り替え、文科省での会見では報道陣に翼さんの遺影も公開した。

暴力根絶宣言から5年。

いまだに、「どんな指導がパワハラになるかは、選手側の気持ちの問題だから周囲の人間では判断できない」との意見も根強い。だが、いわば主従関係の下に置かれている選手らに、その判断を委ねてしまうのはあまりに酷だ。

多くは「ほかの選手は我慢しているのに」と自分の気持ちを押し殺す。翼さんのようにパワハラに抵抗感を抱いても「自分がダメな人間だからだ」と自己否定し、こころを壊す。そんなケースを筆者はたくさん見てきた。

17歳の死は、宣言しただけでは人の意識は変わらないことを教示してくれている。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文芸家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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