トヨタ「15代目クラウン」に滲み出る深謀遠慮 欧州勢との競争、ユーザー高齢化への悩み

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伝統を継承しつつもクラウンは時代を先読みした革新が必要になってくるのでは?(撮影:尾形文繁)

五味:「いつかはクラウン」と言われていた頃のブランド力は、もうとっくに販売台数としてブランド消費されちゃったんですよね。今新たにブランド構築していかねばならないタイミングだと思います。

下の世代は抵抗なく受け入れる可能性も

山本:でも、意外と若い世代は別の考えを持っているのかもしれません。カローラも何となくそうでしょう?

シニア世代のカローラのイメージは「カローラ=スポーティ」。一方、僕ら40代前後だと、「カローラ=営業車の代表」という感じです。

――定番すぎるカローラをそのまま乗ることに抵抗があったり、クラウンにあまりかっこいいイメージも持っていなかったりする人もいるような世代では?

山本:ただ、僕らより下の若い世代は、木村拓哉さんが出演するカローラフィールダーのTVCMを見ていて、決してダサいクルマだとは思っていない。

五味:しかし、今のクラウンは若い世代をターゲットにしても、とても買える値段ではなくなっています。もっと安くならないと。トヨタすべての車種に言えることですが、「これもほしい、あれも必要だ」とオプションを付けていくと、結構な値段になります。現行クラウンがあれだけ斬新なデザインを採用しても、それをかっこいいと思うような若い世代には買えない。

塩見:メーカーも「若返ったクラウンはどうですか?」と言うと、かえって(まだ若いつもりの)シニア世代に売れるということまで、ある程度計算しているかもしれない。

――ベンツEクラスやBMW5シリーズと比べると?

塩見:いろんなところに新しさを感じるのは、もちろんEクラスとか5シリーズです。乗り心地はクラウンよりもEクラスが勝ります。エンジンのバリエーションもよりどりみどりだし、ディーゼルもハイブリッドもあって、ラインナップが充実しています。

商売的に、お客が違うと思います。Eクラスとか5シリーズに比べ、クラウンのお客さんはずっと保守的だと思う。

山本:一方で、地方都市に行くと意外に「クラウンがクールだ」と言う若い人もいます。でも、やっぱり金額的には買えないし、今は高級ミニバンの「アルファード/ヴェルファイア」という強敵もいて、ある意味、アルファード/ヴェルファイアが昔のクラウンのような立ち位置になっているんですね。

クラウンが今までの延長線のままでいいとは、たぶんトヨタも思っていません。だけど、往年のファンを裏切ることもできないだろうし、右往左往し始めたところなのかもしれません。

五味:15代目クラウンはEクラスや5シリーズに迫っていると思います。実際に同じ装備とかで比べると、クラウンのほうが2車種よりもだいたい100万円安いんです。それをコストパフォーマンスが高いと考えるユーザーもいるはずです。

この間、ある雑誌の企画で5シリーズ、Eクラス、クラウン、レクサス「GS」の1000km試乗をやりました。この4台の中でクラウンは最も乗りやすかったです。全幅1800mmは、日本の道にものすごくジャストフィットしている。それに地方に行ったら、ブランドの認識も変わります。

登場したばかりの新型車ですが、これからどう「熟成」させていくかがとても大事ですよね。15代目クラウンは、素性が良くスポーティな味付けも可能な車だと思います。伝統を継承しつつも、「クラウンをそんな風にして良いの?」と思える位の時代を先読みした革新が必要だと思います。

成相 裕幸 会社四季報センター 記者

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なりあい ひろゆき / Hiroyuki Nariai

1984年福島県いわき市生まれ。明治大学文学部卒業。地方紙営業、出版業界紙「新文化」記者、『週刊エコノミスト』編集部など経て2019年8月より現職。

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