「世界同時株安」の裏に潜んだ5つの重大懸念 成長要因は残るがリスクも顕在化してきた

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株式市場に限らずインデックスファンドやETFを含めたリスク商品は今後ズルズルと売られていく可能性が高いかもしれない。未来のことは誰にもわからないが、投資家の多くが下落に備える方向に転換しつつあると考えたほうがいい。

とはいえ、株式市場が売り一色になるとは考えにくい。

現在の世界経済は、第4次産業革命とも言われるイノベーションの大きな波の中にいる。フィンテックや仮想通貨、人工知能にロボテック、自動運転技術にドローンといった技術革新が次々に起こっている。

こうしたイノベーションの世界を、バブルという言葉で片付けてしまうのはやや乱暴すぎる。アマゾンやアップル、グーグルといったITを代表する銘柄はやや買われすぎだが、それに付随しているほかの銘柄もすべて買われすぎていると思うのは早計だ。

むろん、いいことだけではない。米中貿易戦争も、中国はどこまでトランプ大統領に付き合うのかはわからないが、25%の貿易関税をこのまま受け入れて行くとは到底思えない。人民元安がどこまで進むのかわからないが、トランプ大統領、習近平会談の行方によっては株式市場にも影響を与えるかもしれない。

さらにもう1つの懸念材料が「新興国通貨」だ。今回の世界同時株安ではドルが売られて、安全資産と言われる円やスイスフランが買われるという場面が見られなかった。金価格の高騰にもつながらなかった。要するに、リスク資産の代わりに為替やコモディティへの逃避が表面化していないわけだ。

その一方で、トルコリラやアルゼンチンペソといった財務の弱い通貨は売られている。このあたりの分析をきちんと行わないと新興国のリスクをきちんと読めないのかもしれない。新興国にはどうしてもアメリカの金利上昇による資本流出のリスクがある。

いずれにしても、アメリカの中間選挙で共和党が勝っても、民主党が勝っても、どのみち株価がこれまでのように一直線に上昇していくとは考えにくいということだ。

日本株が世界で最もハイリスク?

最後に、日本株の動向についてだが、周知のように日本の株式市場はほとんど外国人投資家によって支配されているために、今回のような株価暴落には当然ながら連動することになる。アメリカ株が上がれば日本株も上がり、アメリカ株が下がれば日本株も売られる。

ただし最も心配なのは、日本だけがいまだに大規模な量的緩和政策を続けていることだ。ウォールストリートジャーナルに「アベノミクスの巻き戻し、影響は数世代に」という記事が出て話題になっている。

国債市場の5割近くを中央銀行が保有し、株式市場もETFを介して株価を支えてきた。加えて、日銀、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)、共済年金、ゆうちょ銀行、かんぽ生命といった「五頭のクジラ」と呼ばれる公的に近い資金を使って、株式市場を支えてきた。

言い方を換えれば、日本株は当面下がってもそれを支えてくれる中央銀行や公的資金があるかぎり、短期的な下落で済み、結局いつまで経っても「適正な株価」というのは反映されない。

その代わり中央銀行や公的資金に株価を支えるだけの力がなくなった時に、株式市場は予想を超える下落をすることになる。その現実に世界のメディアも気づき始めた、と言っていいのかもしれない。

岩崎 博充 経済ジャーナリスト

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いわさき ひろみつ / Hiromitsu Iwasaki

雑誌編集者等を経て1982年に独立し、経済、金融などのジャンルに特化したフリーのライター集団「ライトルーム」を設立。雑誌、新聞、単行本などで執筆活動を行うほか、テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活動している。『老後破綻 改訂版』(廣済堂出版)、『日本人が知らなかったリスクマネー入門』(翔泳社)、『「老後」プアから身をかわす 50歳でも間に合う女の老後サバイバルマネープラン! 』(主婦の友インフォス情報社)など著書多数。
 

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