37歳「学童指導員」、年収300万円生活の現実 公務員でも「非正規職員」も多く待遇は厳しい

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マサトさんと最初に会ったのは、昨年末。それから7カ月後、Y社の社員になっていた。転職したわけではない。A市では2018年度から公募型プロポーザル方式で運営事業者を選定しており、Y社が選ばれたのだ。

「主任職に戻り手当がつくようになりましたが、月給制から時給制に変わりました。主任から外され、ダブルワークでしのいでいた人が、家族から『そんなんでは生活できひん』と言われ辞めていきました。市の方針で主任は13〜19時勤務ですが、一般の指導員は14〜17時と働く時間が決められています。『主任だけたくさん働いて、給料が高いのはズルい』と職場の雰囲気が悪くなった学童もあります。自分の給料は減りますが、働く時間を他の指導員にゆずっています。空気を読んで……」

安定したスタッフ体制維持のためにはパート・アルバイト指導員の生活も保障しなければならない。本来、経営者が考えていくべきことだが、現場が対応せざるをえなくなっている。現在よりも待遇のいい学童から働かないかと誘われるが、マサトさんはA市で働き続けていくという。

「人材流出」の問題も予見される

国は放課後児童支援員の資格を設けて以降、運営費の人件費算定を大幅アップ。処遇改善事業に取り組んでいる。2017年度からはキャリアアップ処遇改善事業も予算化した。勤続年数や研修実績等に応じた賃金改善に必要な費用を補助するものだ。だが、自治体や施設によって対応の仕方もスピードも違う。

大阪学童保育連絡協議会事務局次長の柴田聡子さんは言う。

「3年前、大阪市内の正規指導員で年収300万円を超える人は20人にも満たなかったと思いますが、現在は300万円を下る正規指導員は相当減っています。しかし、札幌や名古屋などではさらに処遇改善が進んでいて、年収400万円を超えるようになっています。先日、名古屋の学童関係者から『大阪の指導員がこちらで働くことになった』と聞き、今後人材流出もありうるかもしれないと感じました」

同じ仕事なら、少しでも高い給料の職場で働きたいと思うのは当然のこと。指導員の奪い合いは避けたい。国や自治体のさらなる処遇改善施策を期待したいが、より多くの保護者が指導員の労働環境へ目を向けることも必要だろう。

須藤 みか ノンフィクションライター

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すどう みか / Mika Sudo

長く上海を拠点に活動したのち、2014年秋帰国。現在は、大阪、在日中国人のほか、子どもと読書、子どもの育ちにかかわる職業などをテーマに取材。著書に『上海ジャパニーズ』他。2009年、『エンブリオロジスト 受精卵を育む人たち』で第16回小学館ノンフィクション大賞受賞。「本好きキッズの本棚、見せて見せて!」などに連載中。

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