なぜ、豆腐とガンダムがコラボできたのか? ガンダムファン社長が語る次世代を創る企業(下)
夏目:その反省は、生きましたか?
鳥越:生きました。むしろ、私の原点にもなっています。その後、雪印で事件の対応を終え、相模屋食料へ入社しました。じつは群馬県で営業担当だった時代に、相模屋食料の会長の娘さんと知り合い、結婚した、というご縁がありました。このとき、私はまず現場を知ることから始めました。朝、暗いうちから工場に入って、お豆腐を寄せ、豆乳の温度、お豆腐のすくい方などを研究した結果、ついには職人みんなのクセもわかり、食べれば誰が寄せたお豆腐かわかるようになりました。お豆腐のことは何も知りませんでしたが、そこから職人技が必要といわれるお豆腐を寄せられるようにまでなりました。
継続的にいいものを出すなら、知識は付け焼き刃であってはならないと思ったのです。他人がつくった生産設備やシステムに乗っかるのでなく、本気で商品と向き合わなければならない。そう思い、市場を見ていくうちに、小売店さんのニーズや、お豆腐がもつ可能性に気付いていった。経営でなく、お豆腐づくりを一から学ぼうとしたのは、雪印乳業時代の経験があったからこそだと思います。
世の中を変える仕事は、きれいにいかない
夏目:本当に「罵声は浴びた者勝ち」だ。その後「ザクとうふ」を世に出したのは?
鳥越:09年に東京へ出張した折、ガンダムの30周年イベントに立ち寄ったのです。もともと、熱狂的なガンダムファンだったので、イベントでさまざまな企業がガンダムとコラボする様子を見て「ウチもできないかな?」と夢をもったのです。
夏目:好きなだけにすぐ想像が膨らんでいった。(笑)
鳥越:ええ。まず、お豆腐にするなら主人公の『ガンダム』でなく量産型『ザク』がいいと思いました。『ガンダム』は作中でただ一機の存在。これをかたどったお豆腐を大量に並べたら、ファン心理としては違和感があります。私自身、許せません(笑)。しかし量産型の『ザク』なら、たくさんあるほどカッコいい。このとき私は、短絡的に売り上げを求め、ファンに「あざとい」と思われる商品でなく、まず何よりも、私がほしい商品を出したいと考えたんです。
さらに私は、会社員時代の経験から、自分の地位や会社の大きさに頼って動くことはしまいと決めていました。そこで私は、広告代理店など、先方と取引がありそうな企業を通して交渉に行くのでなく、ガンダムが好きな人に仲間になっていただき、その仲間の、その仲間の……と人脈を築いていったんです。豆腐のトップメーカーの社長という立場も、食品業界とは無関係の人間から見れば「だから信用する」という理由にはならない。それより、自分という人間の情熱をベースに道を切り開いたほうがいいと考えたのです。
夏目:キャラクター商品を出すとき、権利をもつ会社が警戒するのは「物語の世界観を壊されないか?」ということ。その点、“情熱ベースの交渉”は理にも適っていますね。
鳥越:結果的に、この方法が功を奏しました。先方に私が熱狂的なガンダムファンであることを認めていただけ、プレゼンできたのです。きっと、交渉も気迫がこもっていたことでしょう(笑)。その後、このシリーズは「鍋用!ズゴックとうふ」などに進化し、出荷数が100万機(このシリーズは「丁」でなく「機」で数える)を超えています。
夏目:立場でなく、情熱で人を動かすということですね。
鳥越:もしかしたら、日本の会社員のなかには、仕組みや制度はできあがっているもので、いまさら地を這うように動くことなどしたくない、市場を変えるのは無理だ、と思う社員が多いのかもしれません。だとしたら、大きな問題です。じつは「ザクとうふ」の容器もメーカーさんに「こんな複雑な形状はつくれない」といわれ、しかし私が「こうつくったら」と提案をするうち、私の情熱にほだされ、メーカーさんがつくってくれたものです。世の中を変えるような仕事をしようと思えば、きっと、きれいにはいかないのでしょう。