「全員一致」で終わる会議が心底危ない理由 ドラッカーは「常識こそ疑え」と教えた

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たとえば、写真を見せ、どの人が魅力的かを被験者に選ばせる実験を行うとしよう。ただし、本当の被験者は1人だけ。残りは実験チームのメンバーで、すべての写真セットについて、誰をいちばん魅力的だとするか、事前に示し合わせている。そうして実際に写真を選ばせると、真の被験者もほかのメンバー全員が選んだ写真を選びがちになる。メリットの有無や自分の感覚にかかわらず、「みんなが選んでいるから」と選んでしまうのだ。いわゆる社会的証明というやつである。

これは、みんなが事実だと思っている場合、それは事実でもなんでもない、あるいは特定の条件でしか事実になりえないという、ドラッカーの考え方を立証していると言える。

著名ブランドが存続の危機に

面白いストーリーを1つ紹介しよう。「みんなが知っていることは間違っている」と示すと同時に、大企業CEOの個人的な真摯さが表れたストーリーだ。

はじまりは1982年9月29日の朝だ。12歳の少女、メリー・ケラーマンが、パラセタモールをベースとした解熱鎮痛薬、エキストラストレングス・タイレノールのカプセルを飲み、直後に死亡。その後、同じくシカゴ地区で死亡事故が相次いだ。誰かがシアン化合物を混入していたのだ。

全米がパニックになった。とある病院には、問題の製品を飲んでおかしくなった気がするとの問い合わせが700件も殺到。入院した人も数知れない。

アメリカ食品医薬品局(FDA)が乗り出し、混入のおそれがあるとされた270ケースについて調べを行った。結果、たちの悪いいたずらがされていたケースはいくつかあったものの、大半は根拠のないヒステリーにすぎないことが判明する。

このようなパニックが起きたこと自体、ドラッカーの考え方が正しいと示すものではあるが、それ以外にも、ビジネスパーソンにとって重要な教訓がこの事件には含まれている。

このとき、タイレノールは発売から30年近くも経過しており、消費者に信頼されていた。が、この信頼は一夜のうちに吹き飛び、売り上げは急落。販売元のジョンソン・エンド・ジョンソンは1億ドルをかけてリコールを実施するとともに、製品の販売をすべて中止する。さらに、事態が解決されるまではタイレノールを買ったり使ったりしないでくれと広告で訴えた。

ジョンソン・エンド・ジョンソンとその会長ジェームズ・バークには、「正しいことを真摯に行った」と称賛が集まった。だが、ジョンソン・エンド・ジョンソンがいたずら防止パッケージの開発に成功し、昔の名前で販売を再開すると発表したことに対しては、失敗を予想する声しか聞かれなかった。

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