「関空」経営陣、災害対応で露呈した根本問題 民営化後の日仏合弁体制が生んだひずみ

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民営化のメリットがまったくなかったわけではない。2017年初に開業した第2ターミナルの国際線ビルには、保安検査の時間を短縮する「スマートセキュリティシステム」や、客の購買意欲を促す「ウォークスルー型」と呼ばれる免税店を設置。以前からあったアイデアだが、民営になったことで投資の自由度が増し、ビルの新設に合わせて世界の潮流に合ったものを取り入れることができた。

スマートセキュリティシステムは、トレーの移動を自動化したり、レーンの長さを延長したりしてより多くの人数をさばけるようにした。待ち時間は従来比3分の1になったという(写真:関西エアポート)

ただ空港は巨大な公共インフラである以上、投資の自由度だけでその成否を判断することはできない。緊急時の迅速な対応は必須要件だ。「いくら万全なBCP(事業継続計画)を策定しても、それを指揮する経営者や意思決定層がBCP以前の課題に取り組まなければ、また同じことが起こってしまう」(関係者)と危惧する声は少なくない。

国交省が10月初めに発足した主要空港における災害対策の検討会でメンバーを務める日本大学の轟朝幸教授は、「空港の災害対応は一民間企業にとどまらず、関係者が非常に多い。民営ゆえに行政側も言いにくい面があったようだが、有事の際のリーダーシップを誰が引き取るかを官民の間で明確にすべき。関西エアポートも利害関係者との関係を一層深める必要がある」と指摘する。

北海道7空港の民営化はどうなるのか

関空の旅客機能は、結果的に台風直撃から2週間でおおむね回復することができた。政府主導の下、連日連夜現場の空港職員たちが汗を流した。台風直後の空港と陸地を結ぶ唯一の交通手段だったバスは、疲れ切った様子の職員であふれていた。航空会社幹部らは一様に「現場の頑張りはすばらしかった」と評する。それだけに関西エアポートの経営陣には猛省が求められる。

オリックスとバンシは現在、新千歳や女満別、旭川など北海道7空港の民営化に名乗りを上げており、一次審査を通過したとみられる。大雪など気象の影響も大きい北の大地での空港運営は、海上空港である関空とはまた違った難しさが伴う。くしくも北海道は、関空に台風が直撃した2日後の9月6日に大地震に見舞われている。

今回の危機対応から多くを学び、両社は空港運営の姿勢を改められるのか。背負った荷はあまりにも重い。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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