六十一歳の大学生、父 野口冨士男の遺した一万枚の日記に挑む 平井一麥著
1993年、82歳で没した作家・野口冨士男氏。著者の表現を借りれば「もっとも売れない分野、私小説を中心とした純文学作家」だが、『なぎの葉考』や『かくてありけり』等の名作のほか、『徳田秋声伝』『感触的昭和文壇史』等の大きな仕事を残した人である。
その子息である著者は、京成電鉄やオリエンタルランドでの会社生活を終えた61歳、慶大に再入学するとともに、父が残した60年間という膨大な日記の整理に取り組む。初めて読む父の日記、そこには小説家としての苦闘、戦後の栄養失調や筍生活の凄まじさ、家族への愛、受賞や愛読者を得た喜び、死への覚悟など、生き様が凝縮している。「徹
夜。自分の才能に殆ど絶望。しかし書かねばならぬ。生きねばならぬ」(53年)と。
日記を軸に野口氏の生涯を、息子としての半生を重ねて追跡したのが本書。一作家からみた戦後文壇史・生活史ともいえる。原稿用紙にして1万枚に及ぶ日記の公刊が望まれる。(む)
文春新書 945円
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