高齢者中毒死事件に潜む「医療現場」の盲点 逮捕の元看護師はなぜ現場がつらかったのか
しかし、これらのグリーフケアの多くが、亡くなった患者の家族などを主な対象としている。一方で、闘病する患者を最期まで診療する医療スタッフや、患者・家族の生活を支援する介護スタッフのケアについては、あまり意識されていないのではないか。
死に向かう人を見守り、その最期を看取るのは、医師や看護師などの医療スタッフでも心に負担が掛かる。
筆者は以前、脳外科や心臓外科、救命救急、がん専門医、在宅医など、死に直面することの多い20人程の医師に、死や死生観に関するインタビューを行った。その際、話を聞いた医師全員が、自身の死生観や人生、現在の生き方に、患者の死が少なからぬ影響を与えていると答えた。医師になって初めて担当した患者の死が今も忘れられない、と話す医師も少なくなかった。
まして在宅の現場では、普段、死に触れることがほとんどないヘルパーなどの介護スタッフも、看取りのプロセスにかかわる。場合によっては、1日に何度も通って家事や入浴、排せつなど身の回りの世話をし、身近に接してきた患者が死にゆく過程を見ることになる。
その心の負担は医療者以上に大きいだろうし、家族と同じように喪失感を感じることもあるだろう。特に、今まで祖父母など家族の死を一度も経験したことがない若いスタッフの場合には、より一層、ショックが大きいだろうことも想像にかたくない。
遺族との交流で癒やされるスタッフたち
地域のかかりつけ医として、外来と在宅医療を行っているあるクリニックでは、自宅で過ごすのが難しくなった終末期の患者が入居するホスピスを併設している。その施設では患者が亡くなった後、遺族の心が落ち着いた頃合いを見て施設に招き、故人をしのぶ会を開く。
故人の写真や思い出の品々を、遺族と施設のスタッフ双方が持ち寄り、生前に撮影したビデオなどを見たり思い出話をしながら、ひとときを過ごすのだという。
当初は純粋に、家族のためのグリーフケアとして始めたそうだ。しかしまもなく、それがスタッフたちの心も癒やしていることに気づいたと、クリニックの院長は話していた。
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