高齢者中毒死事件に潜む「医療現場」の盲点 逮捕の元看護師はなぜ現場がつらかったのか
7月初め、旧大口病院(現・横浜はじめ病院)で高齢の入院患者2人が中毒死した事件の容疑者として、31歳の元看護師が逮捕された。報道によれば元看護師は、「終末期医療の現場がつらかった」(毎日新聞夕刊、2018年7月10日付)、「自分の勤務時に患者が亡くなると、家族に納得してもらえるか説明が不安だった」(朝日新聞朝刊、2018年7月28日付)、といった内容の供述をしているという。
事件の全貌が不明な今の段階では、それが本当なのか、また真の動機なのかもわからない。しかし、曲がりなりにも終末期医療に携わってきた看護師という専門職の言葉として聞いた場合、いろいろな問題提起を含んでいるように思う。犯罪者の供述だからと頭から無視をするには、少し引っかかるものがある。
日本は、すでに超高齢多死社会となった。国は増大する医療費を削減するため、高齢になっても地域で暮らすことを推進している。今後は在宅(自宅や施設)で医療や介護を受け、看取られて亡くなる人がますます増えると思われる。
看取りは、人の「死にゆくプロセス」に正面から向き合うことだ。家族にとってつらく厳しい期間であるのはもちろんだが、周りで患者や家族を支える医療・介護のスタッフたちにとっても、日々、近しく診療やケアをしていた患者の死を見つめ、受け入れるのは、それほど容易なことではない。もとより元看護師の罪は決して許されるものではないが、供述の裏には、こうした背景もあったのではないか。
死別の悲しみを癒やすグリーフケア
家族や親しい人が亡くなったとき、私たちは大きな悲しみや喪失感、寂しさなどさまざまな感情に襲われる。相手との関係性によっては、立ち直れないほどのショックを受け、うつ状態になったり、日常生活に戻るのが難しいと感じることもあるだろう。そのような死別による悲嘆を少しでも和らげ、悲しみから立ち直るための支援を行うことを「グリーフ(grief:悲嘆)ケア」という。
緩和ケア病棟やホスピスの中には、患者の死後、家族に対してグリーフケアを行っている施設がある。近年では、在宅医療や救急医療の現場でもグリーフケアの重要性が認識され始め、医師や看護師によるケアが行われたり、精神的なケアを専門に担う宗教者やカウンセラーなどを置く医療機関も出てきている。
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