日本が「爆安の再エネ」を輸入する冴えた方法 パリ協定を遵守する「奥の手」とは?

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日射量や風況などの自然条件が発電に適した地域では、発電コストはさらに下がる。太陽光発電では、中東、北アフリカ、モンゴル、南米チリなどの砂漠地帯、風力発電では、カナダ北東部、アルゼンチン南部、アフリカ大西洋岸などが該当する。

なかでも中東諸国は、石油資源の温存を図るとともに、石油依存の経済からの脱却を目指し、再エネ発電の導入に積極的だ。近年この地域で大規模太陽光発電所の建設ラッシュが続き、入札を通じた価格競争により、電力価格の低下に拍車が掛かっている。

2016年5月、ドバイで行われた入札で、1kWh当たり3米セントを切る価格(2.99セント)で長期売電契約が成立し、世界を驚かせた。同年9月アブダビでは、発電規模1億1800万kW、期間25年という大型契約が2.42米セントで落札された。2017年10月には、サウジアラビアで1.78米セントという超低価格での落札も出現した。ほぼ同時期に日本で実施された改正FIT法に基づく太陽光発電入札の最低落札価格17.2円と比べ、実に9分の1というケタ違いの水準だ。

海外の安い再エネ電力を輸入しよう

湿気が多く晴天率の低い日本の気象条件では、中東の砂漠地帯のような低コストでの発電は到底不可能だ。ならば、海外の安い再エネ電力を輸入すればよい。

電気は送電線がないと運べない。島国の日本は外国と送電線がつながっていないので、海外から電力を輸入することはできない。

しかし、水を電気分解して水素を製造すれば、水素は前回紹介したように、液化水素にして、あるいは有機ハイドライドに変えて、大量に海上輸送することができる。つまり、海外の安い再エネ電力を、水素に変換して日本に輸入することが可能なのだ。

輸入した水素は、そのまま燃料電池自動車(FCV)の燃料として使ってもよいし、燃料電池や水素発電で再び電気に戻すこともできる。

前述アブダビのプロジェクトでは、丸紅が20%を出資して発電事業に参画している。また、2018年3月には、ソフトバンクとサウジアラビア政府が、世界最大級となる合計2億kWの太陽光発電事業をサウジで始めると発表した。

これらは、水素を日本に輸出することを意図するものではないが、今後中東において、日本企業が主導する形で、日本を需要先とするプロジェクトが出てくることは十分に考えられる。

中東以外でも、再エネ発電のポテンシャルが大きい新興国や途上国では、再エネ導入拡大へ向けた意欲は強い。これらの国では、日本の技術や資金に対する期待も大きい。

日本にとっては大きなチャンスだ。再エネ発電所を建設し、現地の電力需要に応えると同時に、一部を水素に変えて日本に輸入するような案件を組成すれば、現地国側にもメリットのあるWin-Winの関係を築き、低コストの再エネ由来水素を輸入する道が開ける。

水素社会を実現するために、低コストのCO2フリー水素を潤沢に調達することは極めて重要だ。前回リポートした、海外の未利用エネルギー由来水素の輸入とともに、低コスト再エネ電力を活用した水素の輸入サプライチェーンを構築することは、大きな意義がある。

西脇 文男 武蔵野大学客員教授

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にしわき ふみお / Fumio Nishiwaki

環境エコノミスト。東京大学経済学部卒業。日本興業銀行取締役、興銀リース副社長、DOWAホールディングス常勤監査役を歴任。2013年9月より武蔵野大学客員教授。著書に『再生可能エネルギーがわかる』『レアメタル・レアアースがわかる』(ともに日経文庫)などがあるほか、訳書に『Fedウォッチング――米国金融政策の読み方』(デビッド・M・ジョーンズ著、日本経済新聞社)がある。

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