スケッチブックでマルマンが「超定番」な理由 積極的な中途採用で「異業種集団」を構成

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このように、新商品は投入し続けながらも、きめ細かな採算管理体制を敷いたことで、バブル時の販売アイテム数は約1600アイテムだったが、現在は約1200アイテムにまで絞り、骨太な商品構成に改革した。

経営上の方針転換はもう1つある。それが少子化を見越した顧客ターゲットの拡大だ。選択と集中を進める一方で、新たな市場開拓に挑戦した。

世間はデフレ不況という厳しい経営環境下での就任となった、三代目社長の井口栄一氏(筆者撮影)

創業当時から、主な顧客層は子どもや学生だ。学校経由の安定した販路を持って業容拡大を図ってきた。ただ、少子化によりその市場は年々縮小。大きな成長が見込めない状況にメスをいれるべく、マルマンは社会人向け文具の販売に注力した。

この方針転換は、少子化対応という受け身の戦略である半面、商機を逃すまいという攻めの経営戦略でもあった。というのも、バブル期までは仕事用のペンやノートは会社から支給されていたが、バブル崩壊以降は業績不振に陥る企業が多く、経費削減を目的として文具類を支給しない会社が増えていた。

すると、オフィスワーカーをはじめとする社会人は、自前で文具を調達しなければならず、ビジネスチャンスが生まれていたのだ。この流れに乗ったマルマンは、持ち前の高品質な商品を随時投入し、こだわりの強い社会人層を中心に人気を得た。かつては子ども・学生向けの販売構成比が高かったが、現在は売上構成比が約5割にとどまり、市場環境の変化に対応できているといえるだろう。

高品質にかける思い

定番の地位を支えている「マルマン愛用者」の評判を聞くと、特に評価が高いのは、書きやすさと滑らかさ。マルマンは紙質維持のために、ロングセラー商品であっても研究開発をつねに行っている。

たとえば、今年60周年を迎えた図案スケッチブックも、変わらぬデザインとは裏腹に、発売時から改良が続けられているのだ。発売当初の筆記具といえば、鉛筆や万年筆、油性ボールペンくらいであったが、その後は水性ボールペンや蛍光マーカーなどさまざまな筆記具が登場した。新たな筆記具が誕生する度に、マルマンでは紙質に改良をほどこし、品質向上に努めている。こうした見えない努力があってこそ、いつの時代でも「書きやすい」との評判を得ている。

発売時から改良が続けられている図案スケッチブック(筆者撮影)
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