円高・金融危機は好機だ--日本企業の海外M&A大攻勢が始まった!

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円高・金融危機は好機だ--日本企業の海外M&A大攻勢が始まった!

11月1日。国内証券最大手、野村ホールディングスの日本を含むアジア地域の株式部門の責任者が交代した。シガービョルン・ソーケルソン氏。破綻した米証券大手リーマン・ブラザーズのアジア株式部門を束ねていた人物だ。

時を同じくして、英ロンドンに本部を構える野村の欧州株式部門の責任者にも、リーマンの同部門を率いていたラシード・ブズーバ氏が就任。日本を除くアジア債券部門などでもそれぞれリーマン出身者が、新しい責任者に就いた。これらは伝統的に野村の得意分野。野村は10月中旬入社したばかりのリーマン出身者に、その現場のトップを委ねた。

リーマンのアジア太平洋と欧州中東の事業を継承した野村。米国発の金融危機が世界中を巻き込む混乱が続く中で、日本の証券ガリバーは「ワールドクラスの金融機関になる」(渡部賢一社長兼CEO)ことを目指し、攻めに出た。一連の人事によって、リーマンのノウハウ活用、早期の融合を狙う。

今回野村は約20億ドル(約2000億円)を投じた。企業そのものではなく、人材のみを引き継ぐ。スタンダード&プアーズの吉田百合主席アナリストは「投資リスクをかなり低く抑えた」と一定の評価をする。

国内でこそ圧倒的な地位の野村だが、世界に目を転じれば、「存在感は米欧の有力金融機関に見劣りする」(外資系証券会社幹部)。実際、日本を除く地域のホールセール(法人向け業務)の陣容は野村1700人に対し、破綻前で米国の投資銀行4位だったリーマンですら約3000人。野村は営業基盤の面で米欧の有力金融機関に差をつけられていた。

トムソン・ロイターの調べでは、2006年1月~今年9月までの欧州・中東、そして日本を除くアジアにおける株式引き受けの取引金額は、リーマンが約166億ドルと野村の4倍。M&Aの助言業務の案件数はリーマンが178件と、野村の約3倍のビジネスを展開していた。

リーマン出身者の野村への移籍率は95%以上。人事・報酬体系の整備や野村の既存人員との連携がどこまで進められるかなどに課題は残るものの、リーマン出身者に直近の月額報酬水準を当面保証する戦略が奏功し、つなぎ留めはほぼ成功した。

野村は「顧客ビジネスを基本にした独自の投資銀行モデルへの進化」(仲田正史執行役)を目指す。当面は株式・債券の引き受けやM&Aの仲介業務など伝統的なビジネスが中心になる見通し。ただ、世界の金融市場をめぐる混乱は長期化しており、年間で1000億円にも上ると試算されるリーマン出身者の人件費が、野村にとって足かせとなる可能性もある。そこを乗り切ってリーマンのノウハウとの融合を進められるか。今後の野村の帰趨を左右する。

  

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野村だけではない。今、日本企業による海外企業のM&Aが増えている。トムソン・ロイターの調べでは、今年1~9月までの日本企業の海外M&Aは、金額ベースで過去最高を記録した。大和証券SMBCでM&Aを担当する赤井雄一執行役員は「近年まれに見る状況。これまで買い手の主役だったプライベートファンドが鳴りを潜め、代わって日本企業が表舞台に出た」と指摘する。

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