円高・金融危機は好機だ--日本企業の海外M&A大攻勢が始まった!

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 背景にはキャッシュを潤沢に持つ日本企業の財務体質の強さがある。これまで資産効率の低さを指摘されてきた日本企業だが、金融混乱の中でそれが強みに転じた格好だ。

12年までに総額6000億円を用意しM&A戦略を加速させるキリンホールディングス。9月11日、毎年恒例の「キリングループ社長会」が開催された。グループ各社のトップ同士の情報共有を目的とした会議だが、今年は例年と様子が違う。今回は、海外のグループ10社のトップも参加し、通訳を交えての会議となった。

今年8月、キリンHDは840億円を投じてオーストラリア乳業2位のデアリーファーマーズ社を買収することを発表した。07年12月には同国乳業首位のナショナルフーズ社を2980億円で買収したばかり。キリンHDの視線は、成長市場のアジア・オセアニア地域に向けられている。15年までに売上高3兆円を目指す同社にとり、海外M&Aは有効な手段だ。

現在、キリンHDではグローバルでの人事交流が始まっている。グループの人事総務戦略を担当するキリンHDの佐藤一博副社長は「中国にはかなり前から進出していて、現在は単純な“投資”の段階から一歩進んだ段階にある」と話す。

キリンHDは06年以降、中国の子会社6社から中国人の経営幹部候補者20人弱を集め、年に一回、「キリンアジアリーダーズフォーラム」と呼ばれる研修を行っている。そのほかにも生産やマーケティング、間接部門など、部門ごとに分けた不定期の研修も開催。「リサーチマーケティング力の共有化など、グループ内の資源をフルに活用していきたい」と佐藤副社長は話す。

日本人社員の育成も進める。2年前から、グループの社長以下役員クラスに英語研修が義務づけられた。社員にもTOEICの受験を推奨し、昨年は1300人が受験。年々人数を増やしている。

ただ、今のところ“融合”段階まで進んでいるのは中国だけ。相次ぐ買収で急激に存在感を増したオーストラリア子会社との融合はこれからだ。同国内ではビール2位のライオンネイサン社にも出資しており、3社間でのシナジー創出も喫緊の課題になる。「短期的な利益を追求する欧米系の経営スタイルと、長期的な視点で投資するキリンHDの方針との溝を埋めるためにも、日本との人事交流で意識の共有化を早期に進める必要がある」(佐藤副社長)。

豊富な資金力で攻勢を始めた日本企業。さらに強い円がそれを後押しする。「今は日本企業にとって大きなチャンス」(赤井・大和証券SMBC執行役員)。海外企業とどう融合し、シナジーを発揮するか。日本企業の真の実力が問われる。


(週刊東洋経済)
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