安室奈美恵と知事選に映る沖縄人の世代格差

彼女を誇りに思う若者がとらえる基地問題

政治家の家に育った翁長氏は自民党沖縄県連幹事長まで務めた保守本流なのだが、若いころから基地を挟んで保守革新がイデオロギーでいがみ合っている沖縄の政治状況に疑問を感じていた。

知事選を前に「イデオロギー」では共闘できなくても、「アイデンティティ」なら沖縄を1つにまとめることができると考えた。本土から切り離されて米国施政下に置かれ、復帰後は本土から基地を押し付けられてきた「戦後」を知る世代が抱く魂の飢餓感にアイデンティティという言葉が火をつけ、イデオロギーを排した「オール沖縄」が生まれて知事選を勝利に導いた。

それでも米軍基地の7割が沖縄に集中するという実態は変わらず、辺野古に新たな代替地としての米軍基地建設が「唯一の解決策」として「粛々と」進められている。

2年前の元米軍属に女性が殺害された直後の県民大会では、翁長知事が沖縄方言で、「うちなーんちゅ、うしぇーてぃーないびらんどー(沖縄の人をないがしろにしてはいけませんよ)」とあいさつ、アイデンティティのフレーズは最高潮に達した。

変わりつつある「誇り」という言葉の意味合い

だがその裏で、沖縄に新たなアイデンティティが芽生えていることに多くの沖縄県民は気づいているはずだ。そして、その意識の変革に安室奈美恵さんが一役買っている。

街から消えた新聞を求めるために沖縄タイムス本社まで出向いたとき、母娘孫で列に並んでいた家族がいた。

母親(68歳)と7つと5つになる2人の娘と一緒に並んでいた女性(36歳)は、沖縄県出身で鹿児島県に嫁いでいる。3カ月も前に飛行機のチケットを抑えたという。

「安室ちゃんが来なくても、この日だけは絶対に沖縄で過ごそうと決めていた。母の時代は沖縄というと変な目で見られたが、私たちは差別を感じたこともない。昨晩のコンサートのチケットは当たらなかったが、会場の外まで行って過ごした。彼女は私の誇り」

沖縄の若い人から、今回の取材で何度も「誇り」という言葉を聞いた。だが、翁長知事が県民の心を1つにした「アイデンティティ」が意味する誇りとは色合いが異なるようだ。

1995年以来、沖縄に通っている私には、最近になって、沖縄の風景は変わったと感じている。とくに那覇の街には、新しい息吹が吹き込んでいる。

国際通りの中ほどにある浮島通りから陶芸の街である壺屋地区にかけて、ここ数年、おしゃれなカフェやショップがいくつもできている。もちろん本土から移住してきたオーナーも少なくないが、沖縄県出身の若者が経営する店も多い。

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