安室奈美恵と知事選に映る沖縄人の世代格差

彼女を誇りに思う若者がとらえる基地問題

革製の財布やバッグ、真鍮のアクセサリーを造る工房兼ショップ「anshare」を経営する上原奨太郎さん(36歳)もそのひとり。沖縄の高校を卒業して愛知県内の大学へ進学した。現地で工務店に営業職として就職して、そこでモノづくりに目覚めた。

「一流の大工さんは、プライドを持って実に楽しそうに働いている。地元の沖縄で、こんな生き生きと働ける場所を作りたい」

そう思って27歳のときに沖縄に戻ってきた。手先が器用だったこともあり真鍮や革細工の品をインターネットで販売し始め、2009年に現在の場所で工房を開いた。

給料は低いし離婚率も高い沖縄だが、親が生き生きと好きな仕事をしていれば、子どもたちに夢を与えられる。この店から独立していった職人もいるし、いまでは5人の若者と店を切り盛りしている。

夢は本土よりもむしろ海外に販路を求めること。台湾、香港、シンガポール。海外で自己紹介するときは「日本から」ではなく、「沖縄から来た」と言う。祖母は「アメリカ人も日本人も、人間じゃない」と恨みごとを言うが、自分たちは差別を感じたことはない。そして、それは安室さんの影響が大きいのだという。

沖縄県出身であることに誇りを持っている

1988年にデビューした石垣島出身のBEGINは別格としても、安室さんが1992年にデビューして一世を風靡して以来、1995年にはMAX、1996年にはKiroroやDA PUMPら沖縄県出身のアーティストが本土で羨望の的となっていく。

この世代の若者に魂の飢餓感がないのは、沖縄県出身であることに誇りを持っているからなのだろうか。

上原さんは、言う。

「基地と引き換えにもらう補助金に頼りたくないし、かといって基地反対のデモに参加する気もない。選挙でけんかをするくらいなら、政治に頼らず自分の道は自分で切り開きたい。それが私の誇りだと思う」

9月16日に開かれた花火大会の会場で沖縄県出身者に尋ねて回った。

「あなたにとって安室奈美恵さんとはどんな存在ですか」

もちろん「誇り」と答える女性が多かったが、「ヒーロー」「青春」「God」「夢」などさまざまだ。

夫とともに芝生に座っていた女性(32)は、10代のころに夢をかなえるために東京に移り住み、3年前に帰郷して結婚した。東京で辛い思いをしていたとき、彼女の歌「Get Myself Back」の「大丈夫きっとすべてはうまくいく」という歌詞を聞いて自分を奮い立たせてきたことを涙ながらに話す。

だが、いざ基地の話になると、口数が少なくなる。

「基地は嫌だけど、差別されているとは……。そのことで対立して批判し合うことのほうが嫌だ」

次ページ「沖縄が差別されている」という実感に乏しい
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