プーチン発言騒動に見る脆弱すぎる日本外交 百戦錬磨のプーチンの論理は一貫している

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ここまで述べた後、プーチン氏は「シンゾウはアプローチを変えようといった」と前置きして、年内の平和条約締結を持ち出した。安倍首相が強調している「新しいアプローチ」を逆手にとって、ならば前提条件なしで平和条約を結ぼう、と攻め込んできたのだ。「前提条件なし」と言いながら、実はロシアの論理であれこれ本質的な問題を突き付けた。

オープンの場でプーチン氏が日本の対応に具体的な批判をしたのだから、当然、安倍首相は日本側の見解を示すなど何らかの反論をすべきだった。日ごろ、国会では野党の質問にヤジを飛ばすほど元気のいい安倍首相だが、この時はなぜか黙ったままだった。それ自体、外交的にはお粗末な対応としか言いようがない。

プーチン大統領はこれまでも日ソ共同宣言や日米同盟について繰り返し同じような発言をしている。2016年12月の日本訪問時の安倍首相との共同記者会見では、日ソ共同宣言について有名な「ダレスの恫喝」に言及した。「米国の利益に反することをすれば、沖縄は完全に米国の管轄権に属すことになる」という最後通牒を日本がダレス米国務長官(当時)から突き付けられたことを紹介したのだ。つまり、日本が共同宣言では2島返還で合意したのに、その後4島返還を主張したのは米国の圧力があったからだということを示唆している。そして、日本の対応は共同宣言に反すると主張した。

さらに日本テレビのインタビュー(2016年12月)では「日本は4島の返還問題に言及している。これは共同宣言の枠を超えている。まったく別の話だ」「共同宣言は、2島の引き渡しは書いてあるが、どちらの主権で、どんな条件で引き渡されるか明記されてない」「ロシアには領土問題はないと思っている。あると考えているのは日本だ」とはっきり述べている。これらから読み取れるのは、プーチン氏には日本に北方4島を返す気などまったくないということだ。

それがわかっているから安倍首相は「新しいアプローチ」を持ち出して、北方領土における日ロ間の共同経済活動などを展開して、日ロ間の信頼醸成を図り問題解決につなげていくと言っているのだろう。

明快なロシア・プーチン大統領の論理

ところがプーチン氏はこの点についても、「日本はロシアへの経済制裁に加わった。制裁を受けたまま、どうやって経済関係を高いレベルに発展させるのか」と皮肉たっぷりな発言をしている。ロシアのクリミア併合を受けて欧米諸国は米国主導でロシアに対する経済制裁を発動し、日本もそれに加わっている。制裁に加わりながら、一方で北方領土問題を解決するための経済協力を行うといわれても、とても信用できない、というのがプーチン氏の主張だ。

実際、2016年の首脳会談以後、共同経済活動をはじめ日ロ間の経済協議はほとんど進展していない。その大きな理由の一つが、日本が経済制裁に参加しているため、制裁に反するような経済協力を控えていることにある。

プーチン氏の一連の発言から浮き出てくるロシアの論理は、①日ロ間の交渉は1956年の日ソ共同宣言に基づいて行う、②その共同宣言には2島返還しか書かれていない、③共同宣言の実行を拒否したのは4島返還を主張する日本だ、④日米同盟関係と米軍の展開には大きな懸念を持っている。安全保障上の懸念があるから、簡単に北方領土を日本に渡せない、⑤ロシアに対し経済制裁をしながら、「信頼を醸成するための経済協力」という新しいアプローチは信用できない、という強烈なものだ。

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