半導体ルネサス、「7000億円大型買収」の勝算 「自動運転強化」狙うが相乗効果に疑問の声も
今回買収したIDTは、センサーからの情報を変換するアナログ半導体や通信用の製品を持っている。アナログ製品のラインナップを揃えることで、ルネサス1社でSoC、マイコン、アナログを一括提供し、競争に勝ち抜こうという算段だ。
ただし、今回の買収がルネサスに成長をもたらすかについては懐疑的な意見が多い。杉山氏は「製品群は重なっておらず、シナジーはそれほどないだろう」と語る。IDTの売り上げの6割以上は、データセンターや通信設備向けの製品だ。車載向けの売り上げは10%前後しかない。加えてルネサスは構造改革で注力分野を絞った経営を進めてきた。データセンター向けは注力分野には当たらない。今の同社にとって最適な買収先であったかは疑問が残る。
安全保障や独禁法のリスクが与えた影響
買収にあたっては、近年の半導体買収の障害も考慮されたようだ。2018年3月、アメリカのブロードコムによるクアルコムの買収が対米外国投資委員会(CFIUS)とトランプ大統領によって阻止された。ブロードコムの短期的な利益追求の姿勢によってクアルコムの投資が停滞し、通信技術で中国に後れを取れば、安全保障上懸念が生まれるとされたのだ。先述のクアルコムによるNXP買収のように独禁法の審査も厳しさを増している。
これについて柴田英利CFO(最高財務責任者)は会見で、「そういった側面も相当程度、多面的に検討した上でIDTの買収を決めた」と発言。安全保障面を考えると、IDTの軍需向け製品は生産終了が発表されているもののみ。製品分野も被らないため市場のシェアも上がらず、独禁法の対象にもなりにくい。逆にいえば、ルネサスとの高いシナジーが生まれる企業は買収の対象にできなかったという事情もありそうだ。
今、世界の半導体メーカーは選択と集中によって業績を伸ばしている。シナジーのない分野に手を広げて行くのは、かつて日の丸半導体が歩んだ道だ。二の轍を踏まないためにも、ルネサスは統合効果を高め、利益を出し続けなければならない。
買収の完了は2019年上期を予定している。買収資金の大部分(約6790億円)は借り入れによって調達する。ルネサスの自己資本比率は30%程度まで下落する見込みだ。アメリカの格付け会社S&Pグローバルはこれを踏まえ、同社を「クレジット・ウォッチ」に指定。格下げの可能性を示唆している。
来期からIFRS(国際会計基準)に移行するため利益への影響はないものの、多額ののれん代にも注意が必要だ。今回の買収資金7330億円に対し、IDT社の純資産は710億円程度。差額の6620億円がのれんを含む無形固定資産に該当する。ルネサスはインターシルの買収ですでに1586億円ののれんを抱えている。柴田氏は「世界の半導体企業と比較すれば、決して高い水準ではない」としているが、減損のリスクはつきまとう。
車載市場の競争を勝ち抜くために、今回ルネサスが選んだ戦略は正しかったのか。インターシルやIDTは買収先として適切だったのか。ルネサスは結果で示していくことが求められる。
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