007の映画から考えた「人間対AI」問題の本質 教師の仕事は人工知能に奪われてしまうのか

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『007 スペクター』でMが放つ言葉は、人間対AI問題の本質を突いている。中央左がM役を演じたレイフ・ファインズ(写真:Epsilon/Getty Images)  
近年、AI(人工知能)が人間の仕事の多くを代替するといわれている。では、教師の仕事もAIに奪われ、教育のあり方も変わってしまうのだろうか。認知科学の視座から学びのメカニズムを研究する慶應義塾大学・今井むつみ教授が解説する。

ほとんどの仕事がAI(人工知能)に奪われてしまうということが最近よく話題になっている。だからAIができないこと、他の人に負けないスキルを持たなければ生き残れないということだ。

AIに仕事を奪われるという心配で、世の中が騒然としているが、そのわりには、AIにできること、できないことがきちんと理解されていないし、理解しようともせずに、ひたすら一部のメディアや個人から発信される過激な発言に扇動されている感がある。

核心を突くMの見立て

先日、アメリカ出張から帰る機中で、ジェームズ・ボンドを主人公とするスパイ映画『007』を久々に見た。最新作(と言っても2015年公開)の『スペクター』だ。最初はぼんやり見ていたのだが、思いのほか面白くて引き込まれた。

この作品は、イギリス情報局内の対立が背景になっている。ボンドの属するMI6が、別の情報機関のMI5に統合され、取り潰される危機に立たされる。それを推し進めるのは新たに就任した情報局のトップだ。

新しいトップは言う。世界中の国の情報局が手を結び、世界中至る所に監視カメラを設置し、リアルタイムの膨大な情報を得ることでテロを防ぐことができる、情報こそが世界平和をもたらす、と。ボンドのような個人の情報部員(スパイ)にテロ防止のための「殺しのライセンス」を与えるのは時代遅れだと主張する。

要するに、この人物はビッグデータの信奉者なのである。物語が進むと、監視システムを徹底し、ビッグデータがすべてと言う人たちが実は、社会をコントロールしようとする危険な意図を持っていることが示される。

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