身売り交渉決裂 日本ビクター漂流の深層
業績不振が続くAV機器の老舗ビクター。親会社の松下電器が進めてきた米投資ファンドへの売却交渉は決裂。身売り先が決まらないまま、時間だけが過ぎていく。(『週刊東洋経済』6月23日号)
経営再建中の日本ビクターをめぐる売却交渉が難航している。同社株52%を保有する松下電器産業は今春から米投資ファンド、TPGとの間でビクター売却の交渉を進めてきたが、条件面で折り合いがつかずに6月上旬をもって決裂した。松下は交渉先を中堅音響メーカーのケンウッドに変え、早期決着を目指して本格交渉に入った。
松下は今春に入札方式で買い手を募った。ビクターの知名度や世界的なカネ余りを背景に複数の投資ファンドが入札に参加。好条件を提示したTPGに優先交渉権を与え、3月初旬から具体的な交渉を進めていた。
交渉がこじれたのには理由がある。いちばんの誤算は、ビクターの業績悪化。TPGとの交渉開始後もビクターの売り上げの落ち込みは止まらず、2006年度の営業赤字幅は2月に公表数字よりも50億円近く拡大。しかも、新年度に入って販売不振は一段と深刻さを増した。こうした事態に、TPGは買収価格の大幅な引き下げを要求し、松下が想定する価格と大きく乖離した。
しかも、ビクターの信用力の低さが事態をより複雑にした。「松下が保有株式をすべて売却するのなら、これまでのようなビクターへの資金支援は難しい」--。松下とTPGの交渉が本格化すると、ビクターの取引銀行がそろってそう言い始めたのだ。業績不振のビクターが金融機関から安定して資金調達できたのは、天下の松下がバックについていたからこそ。なにせビクターは前期で3期連続の最終赤字。銀行からすれば、松下の信用補完が消えれば、新規融資はもちろん、現状の融資残高維持も難しいというわけだ。結局、ビクター再建に不可欠なリストラ資金や運転資金の手当ても必要となり、その負担をめぐる松下とTPGの対立も破談の引き金となった。