しかし、この道路投資額は新規投資だけだ。これとは別に維持補修費がある。同統計によると、イタリアの道路の維持補修費は、2006年に約135億ユーロで、2015年には約91億ユーロと、2006年の約67%となっており、そこまで減っておらず、3分の2の水準を維持した。
同統計で採れる、イタリア全体のインフラ投資総額(新規投資額+維持補修費:鉄道、港湾、空港等を含む)は、2006年の約505億ユーロから2015年の約233億ユーロと、半分弱になったのに比べると、道路の維持補修費はそこまで減らしてはいなかった。
冒頭の高架橋崩落との関連でいえば、新規投資額は関係なく、むしろ維持補修費の動向を見なければならない。新規投資が減っても、維持補修が減るわけではない。
加えてイタリアの財政支出は、欧州債務危機以降、「緊縮財政」と報じられることもあるが、実際には総額ではむしろ増えている。OECDの“Economic Outlook”によると、イタリア(一般政府)の財政支出は2006年に約7375億ユーロだったが、2015年には8301億ユーロと、2006年の約1.13倍で増加傾向だった(利払費は含むが債務償還費は含まない)。
その中でも社会保障給付関連の支出は、2006年の約2940億ユーロから2015年の3765億ユーロと、約1.28倍に増やしていた。また経常的な補助金も同程度に増加。ちなみにイタリア(一般政府)の利払費は、2006年は約689億ユーロ、2015年は約680億ユーロと、ほぼ変わらなかった(2011~2014年は金利上昇の影響もあり増加していた)。
財政支出が増加する中で財政収支が改善したのは、それ以上に税収等が増えたからである。イタリア(一般政府)の税収等は、2006年の約6820億ユーロから2015年の約7874億ユーロと、約1.15倍に増えた。その間、イタリアの付加価値税の標準税率は、20%から22%に引き上げられた。結果として、(利払費を含む)財政収支赤字は、2006年の約555億ユーロから2015年の約427億ユーロへと減少したのである。
緊縮財政のために維持補修費を削ったのではない
だからイタリアは、緊縮財政によって、道路の維持補修費を削減せざるをえなかったわけではなかったのだ。当時の政権の政策判断で、税収等が増加する中、財政支出も総額として増やしていたが、道路の維持補修費は減らしていたということだった。結果的に見れば当時の政権は、道路の維持補修よりも、社会保障給付や補助金の分配を優先して手厚くしていた、といえる。
しかも、道路の維持補修費を減らしたから高架橋が崩落した、という因果関係が自明にあるわけではない。崩落した高架橋は、道路の運営を委託された、アトランティアというイタリアの企業の子会社が管理していた。政府が税金を直接投じて、維持補修をしていたわけではない。
アトランティアは、コンセッション方式によってイタリアの高速道路の運営権を保有する事業体としては、イタリア国内最大級の企業グループである。さらにイタリアのみならず、ブラジルやチリ、インド、ポーランドの道路の管理・運営にも携わっている。
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