イタリア「高架橋崩落事故」は他人事ではない 日本のインフラ老朽化対策は大丈夫なのか

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コンテ政権は事故直後に検察の捜査結果を待たず、アトランティア傘下の管理会社の保安体制に問題があるとして、管理権を剥奪すると表明した。本稿執筆時点では詳細はわからないが、この民間事業者による管理・運営体制に何らかの問題があって、事故が起きたかのかもしれない。その真因がわかれば、わが国のインフラ老朽化対策にとって、他山の石になるかもしれない。

道路などのインフラにおける「コンセッション方式」とは、インフラの所有権を公的機関に残したまま、管理・運営を目的として独立採算的に設立された民間事業者が施設運営を行う方法だ。わが国でも、高度成長期以前に建設されたインフラの老朽化が進むため、今後どうその維持補修をするかが課題となっており、政府が直営で管理・運営を公務員が行うのではなく、民間事業者に委ねることも検討されている。

目下、日本の政府や自治体が取り組んでいるのは、センサーやドローン等の新技術を活用した維持補修費縮減の推進や、予防保全等を通じた計画的・効率的なインフラの長寿命化である。

より少ない予算でインフラを維持・管理することで、わが国のインフラの老朽化対策を進めていくことが重要だ。インフラの老朽化対策のため、金に糸目はつけないという姿勢では、この国のインフラは維持できない。なぜなら、人口減少、少子高齢化に伴う人手不足に直面するからである。

国民負担が少なくても老朽化対策は可能

金に糸目はつけないと意気込んでも、建設業では人手不足が深刻だから、限られたマンパワーでしかインフラの維持補修はできない。むしろ、できるだけ人手を介さない形で、維持補修ができる方法を考えなければならない。人手を介さない方法でインフラの維持補修ができれば、結果としてより少ない予算で老朽化対策ができる。それだけインフラを維持するための国民負担は少なくできる。

人手不足に直面するわが国において、今回の事故を緊縮財政のせいで高架橋が崩落したと解しても意味がない。新技術も用いながら、より少ない人手でも、インフラの老朽化対策ができる方法を追求することが必要なのだ。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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