日本の「失われた20年」を招いた決定的な弱点 インターネットの本質をとらえきれなかった

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通信ネットワークや放送ネットワークをも呑み込んでしまうインターネットアーキテクチャの基本原理は次のようなものです(RFC1958 [Architectural Principles of the Internet] Brian Carpenter)。

●一カ所に障害が発生しても全体に障害が及ばない
●コネクションレス(電話のように加入回線間の接続手順はなく、いきなり送れる)
●ネットワーク内では必要最低限の状態情報しか維持しない
●End to End制御(中間のノードは制御に関与しない)
●ユーザーがアプリケーション、サービスの選択を制御できる(何に使うかは限定しない)

このようなインターネットの基本原理は、情報ネットワークの構成だけでなく、組織のあり方や外部組織との関係のあり方にも大きく関係します。

インターネットの本質は、「自律」「分散」「協調」の3つだと私は考えていますが、これらを情報システムの方法論にすぎないと限定的に考えてきたのが日本の組織であり企業なのです。この点に「日本が負けている理由」があります。

日本の「失われた20年」の原因の本質とは

情報通信産業は、1985年に日本電信電話公社を民営化したことで競争原理が導入されました。さらに、1994年のインターネットの商用化により、さらなる大きな変革が求められました。インターネットの本質は、「自律」「分散」「協調」であり、それらは情報通信産業だけではなく、あらゆる企業に大きな変化をもたらすものだったのです。

『全産業「デジタル化」時代の日本創生戦略』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

日本社会は、この本質をとらえきれずに省庁や業界の縦割り構造と相まって、インターネットに適合した制度改革を怠ってしまいました。その結果、インターネットという技術革新の恩恵にあずかることができず、前述した通り、これまでの20年間、主要国のなかで日本のGDPだけが減少し、他国の後塵を拝したわけです。日本だけが、インターネットによる変化に十分に対応できなかったことこそが、「失われた20年」の原因の本質なのです。

組織や取引形態そのものをインターネット時代に合致したものに変えていく、つまり、組織そのものを従来の「ピラミッド型組織」から「自律・分散・協調型組織」につくり変えることが、日本企業にとっては急務となります。

その目的は、急激な変化への対応スピードのアップとスケーラブル(大規模化も小規模化も容易)であり、自律することで、各参加者(企業)が独立して活躍できるとともに、創造的かつ新しい挑戦ができることが大切です。

自律・分散・協調型組織の運営においては、全体の基本的な共通戦略がまず重要で、その共通戦略を組織全体で共有するためのコミュニケーションを活性化させることも同時に必要になるでしょう。

藤原 洋 ブロードバンドタワー会長兼社長CEO、インターネット総合研究所所長

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ふじわら ひろし / Hiroshi Fujiwara

1954年、福岡県生まれ。1977年、京都大学理学部(宇宙物理学専攻)卒業。東京大学博士(電子情報工学)。日本アイ・ビー・エム、日立エンジニアリング、アスキー、ベル通信研究所などでコンピュータ・ネットワークの研究開発、国際標準化作業で活躍後、1996年に株式会社インターネット総合研究所を設立。同社代表取締役社長に就任。グループ企業として株式会社ブロードバンドタワーなどを上場。2016年、テクニオン(イスラエル工科大学)に、研究センターを開設。『ネットワークの覇者』(日刊工業新聞社)、『科学技術と企業家の精神』(岩波書店)など著書多数。

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