AIG系、大和…生保を襲う株安地獄、業界再編の行方も混迷深まる

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早期の資金化が喫緊の課題 ダンピングの可能性も

しかし、AIGには悠長に構えていられない事情がある。AIGに対しては、FRB(米連邦準備制度理事会)により9月25日に850億ドルの緊急融資枠が設定されたが、10月8日にはニューヨーク連銀を通じてさらに最大378億ドルの追加融資枠が設定された。これでAIGへの緊急融資枠の総額は1228億ドルにまで膨らんだ。ところがFRBによれば、AIGは10月22日時点で政府融資枠の7割強に当たる903億ドルをすでに借り入れたというのだ。

当初の計画では、850億ドルの融資枠で流動性を確保し、その間に資産を売却、時間を稼ぐ算段だった。ところが10月1日時点でAIGが緊急融資枠から調達した資金は約610億ドル。それから2週間も経たないうちに、300億ドルを追加で借り入れたことになる。融資枠が再び払底する可能性が高まっている。
 
 しかも、この融資枠には高額な金利が付加されている。実際の借入額には約13%、さらに未使用の融資枠にまで約9%の利子が設定されており、すでに数十億ドル規模の金利が発生している。AIGにとっては、可能なかぎり早急に資産を売却し、現金化する必要が高まっているのだ。このため本来であれば、それぞれ数兆円規模の売却案件となるはずだが、大きくダンピングされるとの観測も浮上してきている。
 
 それでも、AIG系生保の買収にかかる巨額資金を捻出できる日本の生損保は限られる。このため3社の買収企業としては、日本でピーシーエー生命を展開する英プルーデンシャルや、08年4月から生保事業を開始した独アリアンツなどの外資系が有力視されている。
 
 だが、英フィナンシャル・タイムズ紙は、「AIGの日本と台湾の事業には興味がない」との、プルーデンシャルのタッカーCEOの言葉を伝えている。アリアンツも変額年金を軸とし、日本にはない新規商品の展開に意欲を見せており、日本で伝統的生保のM&Aで規模拡大を志向するとは考えにくい。アフラックのエイモスCEOも「興味がある」といいながら、「ビジネスモデルがあわない」と素っ気ない。
 
 そもそも、外資といえども現在の環境下では資金力が大幅に落ちている。救済・買収まで至ることができるのか、不透明感が増している。
 
 一方、大和生命には現在、生命保険2社、ファンド7社が支援企業として名乗りを上げているという。11月中旬までに入札提案書を提出し、絞り込まれた2~3社が詳細な資産査定と入札に臨む。大和生命は規模が小さいことが幸いし、まだ日本で保険事業を展開していない外資系保険会社や流通等の異業種が、手っ取り早い免許獲得のために買収する可能性はある。さらに更生計画で保険契約が見直され、予定利率引き下げや保険金額の縮小が行われることも大和生命にとっては有利に働く。
 
 AIG系3社、大和生命と、売却先が決まるまでにはまだ紆余曲折がありそうだが、今回の金融危機が日本の保険業界再編の引き金を引いたことは間違いがない。


(週刊東洋経済)
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